過ぎゆくときを一緒に「ちょっ、晃牙、落ちつくんじゃ」
『うるせぇ〜、好きか嫌いかって俺様は聞いてんだよ』
なんだろうか、この図は。
愛しい晃牙に床に押し倒され、馬乗りになられ迫られる図。
いや、晃牙の事が好きな我輩にとっては願ってもない事なのだけれど……
「酒の力なんて嫌じゃよ〜!」
『あ?酔ってね〜!朔間しぇんぱいっ、俺様の話を聞きやがれっ』
「あ、噛んだ…かわゆいのう♪………って、そうじゃなくて薫くーん!アドニスくーん!」
UNDEADのライブ終わり、なんの縁かその日は晃牙の二十歳の誕生日で、皆でお祝いをしようと打ち上げを兼ねて我輩のマンションでお酒を開けた。
晃牙は初めてのお酒ということもあり弱い物から様子を見つつ呑ませていたつもりなのに、何故こんなにもできあがってしまっているのだろうか。
晃牙に『聞いてんのかよ』と肩をガクガク揺さぶられながらも、助けを求めて薫くんとアドニスくんに目をやる。
『良い感じにできあがってるね〜』
ニヤリと笑いながら楽しそうにこちらを傍観している薫くんに犯人はこやつかと確信する。
アドニスくんはまだ呑めないしの…
「何を呑ませたんじゃ、薫くん」
『え〜?酔ったらどうなるのか興味あるでしょ?だから、零くんの目を盗んでちょっと強いやつあげたらあっという間にこれだよね。弱すぎて逆におもしろいよね〜?アドニスくん』
『あぁ。大神は酔うと大胆になるんだな』
「なんて呑気な事を……とりあえず二人とも晃牙をどうにかしてくれんかえ?我輩、揺さぶられすぎてリバースしちゃうぞい」
『自分でなんとかしなよ。仲を縮めるチャンスじゃない?ね、アドニス君。邪魔者はおいとましてそろそろ帰ろうか』
『あぁ。朔間先輩、健闘を祈ってる。大神、おやすみ』
そう言いながら荷物を持ち立ちあがる二人に悲願の眼を向ける。
「え?本当に帰るのかえ?」
『あたりまえでしょ。晃牙君明日オフって言ってたからそのままお泊まりでいいよね♪この状態で連れて帰るのも大変だしね~?って事でおやすみ~』
ガチャーー
無情にも一方的にドアは閉められ、未だに我輩の上に跨ったまま一人でぶつぶつと何かを言っている晃牙の声だけが部屋に響く。
『先輩…朔間せんぱい』
「晃牙よ、降りてはくれんかのう…我輩はロデオではないぞい。そんなに揺さぶらないでおくれ」
『嫌だ。まだ質問に答えてねぇ』
「答えたら降りてくれるのかえ?」
『んー』
酒の力とはいえ頬を紅潮させた晃牙に『好きか嫌いか』なんて見下ろされながら迫られてしまうと、堰き止めていた感情が全て流れでてしまいそうだ。
『好き?嫌いなのかよ?俺様の事どう思ってんだよ』
「好きに決まっておるだろ」
『ふっ…俺も好きだぜ』
酔っての戯言なのか本心かは知らぬが、嬉しそうに笑ってそう言い頭を我輩の胸元にぐりぐりと押しつけてくる晃牙に胸が高鳴る。
できれば後者であっておくれ…
このまま爆ぜてしまいそうなくらい煩い心音は晃牙に聞こえてしまわないだろうか?
少しだけこの状況を楽しんでもいいだろうか?
そんな馬鹿げた考えまでわいてくる。
晃牙の背中に手をまわしギュッと抱きしめ、片手で頭を撫でる。所々ツンツンとして硬そうに見える髪も、意外ともふもふしていて柔らかい。一束摘んで光に透かして見れば、キラキラと輝いて綺麗だ。
恋は盲目というけれど、まさにその通りである。
晃牙の言葉、行動に一喜一憂し、中毒になってしまったように晃牙の事だけを四六時中考え全てを知りたい全てを欲したいと思ってしまう。
晃牙のことが好きじゃ。我輩と付き合ってはくれんかえ?
そう簡単にこの言葉を伝えられたどんなに楽になるだろうか…
そうやって考えながら頭を撫でているうちに大人しくなってしまった晃牙からは、規則的な息遣いが聞こえてくる。
寝てしまったかや
「晃牙?晃牙」
『んー……』
我輩の上で軽く身を捩るも、頭を擦り付けまたすぐに規則的な息遣いにもどる。
「寝てしまったみたいだのう。さて、どうしたものか…」
そう言いつつも、晃牙の頭を撫で撫でする手は止まらない。こんな事普段、いや、今後できるわけがないのだから貴重な時間であろう。
しかし、風邪をひかせてしまう訳にもいかんしどうにかベッドで寝かせてあげたいが、このままの体勢から抜け出して起き上がってしまえば起こしてしまうだろうな…
「そうじゃのう……よし」
晃牙を抱きしめたまま横向きにゴロッと転がり、腕枕をした状態で向き合う。
『……んぅー』
「すまんのう、起こしてしまったかえ?」
『…………』
良かった、まだ寝ているようじゃ
このまま一緒に寝てしまいたい欲求がでてくるが、床で寝かせてはいかん我慢じゃと、泣く泣く晃牙の頭の下からゆっくりと腕をぬきとり体を離す。
『………どこ、行くんだよ』
するとギュッと服を掴まれ、目を閉じたままの晃牙がまた擦り寄ってくる。
こっちの気もしれずに…
もう酒は一滴も飲ましてはならんのう。
「ここで寝ては風邪をひいてしまうぞい。起きたならちゃんとベッドで寝てはくれんかのう」
『ん…朔間先輩はどうすんだよ』
「我輩はソファでかまわんよ」
『一緒じゃねぇなら…このままでいい』
そう言う晃牙に力一杯抱きつかれ、こんなにも甘えたな姿を見せられ、今まで我慢していた心の中の箍が外れる。
「もう限界じゃ」
晃牙を押し倒して跨り、手をとり指を絡めて逃げ出せないように床に押しつける。
『…………』
なんて顔してこっち見るんじゃ‥
目は潤み光の反射でキラキラと輝き、濡れた睫毛、紅潮した頬、そんな顔されたら期待されているのかと勘違いするじゃろ?ただの酒の力だというのに…
「晃牙」
『なんだよ』
「我輩をそんなに煽って楽しいかえ?」
『煽ってねぇ〜』
「これでもかという程に充分に煽っておる。我輩の気持ちを知ってての言動なのかえ?そんな顔までして…」
『そんな顔ってなんだよ?どうせ皆より劣ってんよ!悪かったな』
「違うぞい晃牙、かわゆすぎるんじゃよ。今にもキスして欲しい、我輩を求めるような表情をしておるから困惑しておるんだぞい」
『なっ…!』
さらに頬を紅潮させ耳まで赤くなった晃牙が、目を見開き驚いた表情を見せる。
「もうここまできたら伝えてもよいか…我輩は晃牙の事が好きじゃよ」
『っ、知ってんよ。博愛主義なんだろ…』
「それは昔の"俺"じゃよ。我輩は晃牙だけが愛おしくて堪らなく好きだ。三年も我慢してきたんだぞい。片想いって辛いのう…心がおかしくなりそうじゃよ」
『っ……』
もうどうにでもなれと自暴自棄になりながら伝えた言葉に、目の前の愛おしい子はどうしたものか?涙をポロポロと流していく。
「何故泣くのじゃ晃牙よ。そんなに我輩のこの気持ちは嫌か?憧れの我輩に幻滅したかえ?」
指の腹で涙を拭い、前髪を梳くように撫でつける。
『……俺……っ…』
「晃牙、言葉が見つからないならそれはそれでよい。けれど知っておいておくれ、我輩はあと何十年経とうとおぬしの事が大好きじゃよ。こんな我輩は嫌だと言うのなら仕事でもそれなりの配慮はする。だから、好きなままでいさせておくれ…大好きで堪らないんじゃよ」
『っ、ちがう!勝手に話し進めてんじゃねーよっ、俺、おれも…朔間先輩のこと好きだっ!』
「へ……?」
晃牙の口から放たれた、思ってもいなかった言葉に思考が一瞬停止する。
『間抜けヅラしてんじゃね〜よ』
「まだ酔っておるのかえ?」
『酔ってねぇーっ!そりゃ、最初の方はあんまり記憶ないし酔って何かしでかしたかもしんね〜けど、もう醒めてんだよ。起きたら朔間先輩の上に跨ってるわ、頭撫でられてるし…なんでこういう状況になってんのかも分かんなくて、だけど、酔って何かあったんだろうなって考えたらあと少しだけ…少しだけ酔った勢いに任せたまま寝たフリしてても良いかなって、思っちまったんだよ…』
「晃牙〜っ!」
『うぐっ…』
嬉しさ有り余り、これでもかという程に勢いよく晃牙をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「こ〜が」
『落ち、つけって…苦しっ…、吐きそ…』
「あぁ…すまんのう、大丈夫かえ?」
『大丈夫じゃねぇー、よっ!!』
力任せに晃牙に体を転がさられ、上下が逆転する。
我輩を見下ろす晃牙は笑っていて、時折チラッと口許から覗く犬歯がとてもかわゆくて仕方がない。
『俺、朔間先輩が好き。俺もずっと片想いしてた』
「そうか…それは待たせてしまってすまんかったのう。同じ気持ちだったとは思わんかったわい…もっと早く伝えていれば、もっと早く晃牙と"いちゃいちゃ"できたのにのう。この三年は長かったんだぞい」
『何言ってんだよ?まだまだこれから先があんだろ?朔間先輩』
「そうじゃのう、感謝しておるよ晃牙。大好きじゃよ」
『俺も好きだぜ?誕生日プレゼントくれよ、朔間先輩』
何が良い?そう言おうと口を開きかけた瞬間、晃牙の顔が近づいてきて、唇へひとつ甘いキスを落とした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
後日楽屋
「こ〜が、今日お泊まりするかえ?」
『明日は朝早くから仕事が入ってんだって何回も言っただろうが。暇さえあれば同じ事ばっかり聞くんじゃねぇ〜』
「我輩が送っていくゆえ、お泊まりがいいんじゃよ〜晃牙ともっと一緒に居たいんだぞい♪」
『ベタベタいつまでも触ってんじゃね〜よ!着替えが進まねぇっ!』
ドンッー
『あ〜あ‥零くん肘鉄食らってるよ、痛そ〜だね』
『大神、先輩を殴ってはダメだぞ』
「うぐっ、……いいんじゃよ、アドニスくん。愛の鉄槌じゃ!零ちゃん泣いちゃう」
『ずっと泣いてろっ!明日泊まってやんよ』
そんな言葉とともにそっぽを向いた晃牙の頬がほんのり赤く染まっていた事には気づかないフリをしておくかのう。
機嫌を損ねてはお泊りできなくなってしまう故。
ずっとこの先も晃牙と一緒に……