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    fujisawa_0718

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    fujisawa_0718

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    鷹銀の始まり

    【過ちの始まり】 鷹見、銀星
     
     【side.銀星】
     勉強熱心で。真面目で。優しくて
     皆んなから好かれ、お手本みたいな奴
     それが俺の彼を見た時の第一印象
     多分そう言う人は。親から沢山の愛情を受け優しい子に育ったんだろう
     だから、その例に漏れず彼の事もそう思っていた
     
     思って。居たんだ
     
    「銀星…だっけ?」
     
     たじろぐ俺と、それを見て何事も無いかのように呟く彼
     ふわりと煙が上がるソレは。学校に居たらまず見かける事はないもの
     
     俺はその日
     彼の闇の部分に触れてしまった
     
     
     何をするのも億劫だった
     特に楽しくもない学校。女子には必要以上に迫られ「思ってたのと違う」と言われ勝手に幻滅される
     俺はただ何事も無く過ごしたいだけだ。目立たずひっそりと生きたい
     なのに。どうして皆んな必要以上に期待をする?
     そんなのに答え切れる。とは一言も言ってないのに
     
     あぁ。この場にいるのすら。辛い
    「……」
     
     その場所に来る人など誰もいやしない
     常に何処かに人がいる学校で、ほぼ唯一な一人になれる場所
     階段を登り、少し錆び付いてしまった扉をゆっくりと開ける
     夏は暑いし、冬は寒いがそれ相応の対応をすればなんら問題ないその場所
     
     いつもなら誰も居らず、そこで一人本をよんだりぼんやりしたりするのだが、その日は先客が居た
     
     扉を開けたその先、フェンスにもたれ掛かり学校にいるならまず見かけることのない煙草の煙をぷかぷか。とさせているその男
     学校内でもかなりの模範生徒だ。と言われているその男が。煙草を吸っていた

    「……え」
     俺の声に気付いたのか、その男が気怠そうに振り返る
     俺の姿を捉えたなら、なんだ。と言わんばかりに一言
    「銀星…だっけ」
     と、言ってくるじゃないか
     俺にバレたと言うのに、煙草を消す気配すらもない
     
    「……たか、み?」
    「うん、そうだけど?」
     
     
    「銀星もよく、ここに来るの?」
    「一人になりたい時。よく」
    「なるほどね。ここはあんまり人来ないもんねぇ…俺もよく来るんだ」
    「……煙草を吸いに?」
    「それも一つかなぁ」
     
     どうしてこうなった
     煙草を吸ってる鷹見をみて固まっている俺に近付き、何故か彼と話すことになってしまった
     煙草をぷかぷか。と吸いながら俺とたわいもない話をしている
     
     鷹見と言えば。優等生第一号みたいな奴だ
     煙草とは無関係そうな
     なのに。そんな鷹見が煙草を…?
     
    「俺が煙草吸ってるの、そんな意外?」
    「そ、そりゃ…だって、鷹見ってかなりの、模範生……」
     そう問いかける鷹見に、思っていた事をそのまま返すと、少しだけ。ほんの少しだけ彼の何かが変わった気がした
     言わば彼に一筋の闇が紛れ込んだ様な。そんな感じ
     
    「……ねぇ、銀星」
    「な、何?」
     
    「人ってさ。主にどこの部分に着目してみてると思う?」
    「…は?」
    「まあ、いいからさ。答えてみてよ」
    「中身……とか…?」
    「違う」
    「え」
     
    「違うよ。銀星」
    「皆んなが見るのは外見だけだ。誰も中身なんて見やしない」
    「そんな事…」
    「じゃあもう一つ聞くけど」
     
    「君さ、俺が煙草吸ってる光景みるまで俺が喫煙してるだなんて。微塵も思ってなかっただろう?」
    「…」
     鷹見の言う通りだ
     あの光景を見るまで、俺は彼の事を優等生だと思い込んでいた
     
     それは彼の言う通り外見でしか判断できていない。と言っているものじゃないか
     
    「結局さ。外見さえ優等生演じて騙しておけば。……俺自身の身体なんてどれだけ汚してもバレやしないんだよ」
     そう言う鷹見の言葉に、彼の紛れもない本心が滲み出ているんだろうな。と感じた
     外面さえ演じれば、中を汚しまくってもバレはしない
     そう考えつくのは、彼自身がそうなってしまったからだ
     
     そんな事思いつくなんて、彼にはなかなかの過去があったんだろうが、それに踏み込むのはなんだか野暮な気がした
     
     多分彼も。踏み込まれるのは嫌だろうから
     
     
    「……でも、俺にはペラペラと喋っていいのか?そんな事」
    「ん?」
    「俺が皆んなにバラしてしまう可能性だってあるだろ」
    「君が?」
     
     あまりにもペラペラと話す鷹見を不思議に思って、そんな質問を投げかけて見ると、彼は、あははっ!と笑っていた
     あいつ、あんな表情もするんだ
     いつもは優しそうな微笑ばっか浮かべてるのに、今は胡散臭い笑顔を浮かべている
     
    「言えないだろ?」
    「…」
    「銀星みたいなタイプの人って、大概荒波立てたくないタイプだ。静かに、大人しく過ごしたいタイプ」
    「そんな人がわざわざ荒波を自分から起こすわけないし、それに俺が一言『やってない』ってゆえば、それがまかり通る」
    「言っただろ?『外面さえ演じておけばバレやしない』って」
    「……でも、もし言ったらどんな反応するのかは気になるなぁ。皆んなは俺の言葉と、銀星の言葉…。どっちを信じるだろうね?」
     
    「……」
     食えない奴だな、こいつ
     俺がどんな性格をしているのか。周りはどんな反応をするか
     全部、予測しているんだ
     予測できているからこそ、こうして俺と対峙しながらもて遊んでやがる
     
    「…食えない奴だな。お前」
     そう、皮肉をこめながら彼にそう返してやると、彼は一言
    「それはどうも」
     とだけ、返してきた
     
     
     それからと言うもの、彼とは屋上で顔を見合わせる機会が増えてきた
    「やあ、銀星。サボりかい?」
    「鷹見だってそうだろうが」
    「まあ、そうだねぇ」
    「どうやって抜け出したんだよ」
    「普通に体調悪いから。って言って出てきたよ」
    「そんな奴が煙草吸いまくっていいのかよ」
    「……どうせバレないし良いんだよ」
     
     彼奴は煙草をぷかぷかとさせ、俺はそんな鷹見横目に偶に話し相手になりながら本を読んだりスマホを触ったり
     そうやって、彼と一緒に過ごす時間は中々悪くなかった
     ……多分俺たちは似たもの同士だったんだろうな。と今は思っている
     
    「俺も人の事言えないけどさ、銀星って結構サボり魔だよね」
    「……期待されるのはゴメンだからな」
    「へぇ?」
    「お前も分かるだろ?できる奴、カッコいい奴。って期待されるのは疲れるんだ。俺にそんな期待されても困るだけ」
    「そんな場にいたくない気持ち、お前なら分かるだろ」
     
    「それは勿論。それを期待されるから演じてやってるんだから、俺は」
    「俺はその演じるのも無理だったんだよ」
    「まあ、これは今までの生き方によるんじゃない?」
     
    「……俺はそんな事。小さい頃からずっと迫られてきたからやってるだけだし」
     鷹見のそのセリフに、確かな闇が滲んだ様な気がした
    「……苦労してんな。お前」
    「それは銀星もだろう?」
    「……。」
     
     取り止めもない会話をしながら、心の奥底に沈めた「ある思考」がチラリと。こちらに顔を覗かせた
     俺と、似ている彼
     彼なら
     俺がわざと沈めているその思考に。醜い欲に
     ……付き合ってくれるんじゃないだろうか。なんて
     
     その思考は誰にも言っては居なかった
     どうせ引かれるのは分かっていたからだ
     でも。鷹見なら
     あの男なら
    「鷹見」
    「ん?」
     
     これは一種の賭けだった
     彼が受けていれてくれるかは、正直分からない
     けど、彼にだけは言えるような。そんな気がしたんだ
     
     だから。俺は
    「お前さ……。」
     
     この一言が。全ての過ちの始まり
     
     
     
    「初めまして。『鷹見』です」
     そうやって皆んなに挨拶をしている男の顔に嫌と覚えがあった
     青い髪に赤い目。あの時の全く同じ煙草
     彼の行動を見ている限り、あの時より煙草吸う量が格段に増えていた
     あぁ、やっぱり煙草手放せなくなったんだな。アイツ
     
     一通り挨拶を終えたのち、彼は一直線に俺の場所にやってきた
    「やぁ、銀星」
     あの時と同じトーン。同じ表情
     彼はやっぱりあの時の男だろう
     
    「元気にしていたかい?」
    「…それなりに。な」
    「そっかぁ」
    「銀星と会うのは二、三年ぶりかな。大学院出て以来だ」
    「その時までは定期的に『遊んで』たのにねぇ」
    「……」
     
     彼を『遊びの関係』に誘ったのは俺だ
     あの時はとにかく自分自身が嫌いで。嫌で
     誰かに汚されたかった
     だから、その願いを叶えるために彼を誘ったんだ
     彼だって同じ考えな人間だっただろうから
     
     でも、そこで
     彼は俺より。その関係に深くハマってしまったのだ
     彼は汚す汚されるためなら、何も厭わない人間
     煙草だって吸ってたし、ピアスだって色んな場所に開けていやがった様な人間
     
     そんな彼がそんな関係を手に入れて、のめり込まない訳がなかったのだ
    「自分も相手も汚す」
     その快楽に彼はみるみる溺れて、沈んでいった
     
     俺が、彼を狂わせてしまったのだ
     
     あの快楽は彼が心の底から欲していたものだったのだろう
     初めて、彼と遊んだあの日
     鷹見は。心の底から楽しんで笑っていた
     
     彼が本当に欲していたのは、飢えた欲を満たしてくれる程の愛情だ
     彼からしたら。あの時。あの一瞬だけ与えられる極上の。仮初の愛情に縋り付くほかなかったんだ
     
     遊びの関係を持ってからというもの
     彼は親が寝ている間に度々出て行く様になって、大学の頃はほぼ毎日夜遊びに出歩いていたらしい
     
     彼が学生の頃は定期的に俺とも遊んでいたから、その時の話は聞いていた
     作り笑顔しかしてなかった彼奴が、恍惚な表情をしながら語ってくる遊びの話
     俺は。そんな彼の話を聞きながら
     彼を間違った方向に後押ししてしまった事を責めていた
     
    「ところで、銀星」
    「何だよ」
    「あれからも、定期的に遊んでいるのかい?」
    「……。どーゆ意味だよ」
    「あれ?銀星なら分かってくれる『筈』でしょう?」
    「……。」
     
    「今はやってねえよ。誘ってくる相手もいやしない」
    「顔いいのに?」
    「お前みたいにフラフラ歩かねえんだよこっちは」
    「まるで俺が悪いみたいな、言い方じゃないか」
     
    「俺にこれを教えてくれたのは。銀星だろう」
     その鷹見の言葉が重くのしかかった

    「お前は相変わらずか?」
    「頻度は流石に減ったけど、定期的にはね」
    「俺は、あの時間が一番幸せだから」
    「……そうか」
     あの男は相変わらず、あの仮初の愛情に溺れているのか
     
    「……」
     ふと、彼が考え込む様な仕草をしてるのが見えた
     アレには見覚えがある
     あれは。彼が俺を
     
    「久々に遊ぼうよ。俺と」
     彼から発せられた台詞は、まんま予想通りだった
    「……。」
     少しだけ、その返答に対する思案をしてみた
     俺だって、今でも当時の気持ちがない訳じゃない
     勿論、鷹見ほどじゃないけど
     
     でも
     
    「逃す気ねえんだろ、どうせ」
    「二十三時に迎え来いよ」
    「ふふっ。いいよ」
     
    「久々だね、銀星と遊ぶの」
    「お手柔らかに頼む」
    「んー、無理かな」
    「ふざけんな」
    「昔は可愛げあったのに」
    「今はねえって?」
    「そうは言ってないだろう?」
     
     
     彼をここまで引き摺り落としたのは俺だ
     それに、間違いはない
     
     だから。だからこそ
     俺が彼の近くでその償いをしなくちゃいけないんだ
     
     どれだけ、歪んだ関係だろうと。俺はお前の相手をしてやるよ
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