だって男の子だもの 珍しく、君島のほうが先に覚醒した。普段は寝覚めが良い遠野が早々に起きて、君島が目覚める頃には朝食の支度が出来上がっている。君島はまだぼんやりとした目を擦りながら、未だ夢の中の白い面差しを眺めた。
(黙っていると本当に綺麗ですね……処刑処刑とやかましい人とは同一人物とは思えない)
そんな騒がしい男と日々を共にするようになってから、もう何年経つだろう。君島は苦笑し、そっと彼の頬に触れた。
(……おや?)
よく見てみれば、口元にうっすらと髭が生えている。遠野とて男なのだ、当たり前といえば当たり前なのだが、いつも先に起きてさっさとシェービングを済ませているから、こんな姿を見るのは意外と初めてのことだった。
「アナタも、髭が生えるんですよね」
ぽつりと零した独り言が、耳に届いたようだ。遠野はゆっくり目を開けると、眉間に皺を寄せた。
「……アァ?朝から何言ってんだ」
「すみません、起こしてしまいましたか」
「当たり前だろ、テメェと違って脱毛なんかしてねえんだよ」
ぺたぺたと君島の頬を触る手は、少しかさついている。
「触らないでください」
「自分勝手なヤツだな、俺には勝手に触るじゃねーか」
「私はいいんです」
「フッ、ほんとワガママ」
起きるか、と大口を開けてあくびをする姿は、気儘な猫のようだ。君島は遠野の髪の毛を指先で弄びながら呟く。
「でも、遠野くんは髭、似合わないですよね」
「俺も生やす気なんかねえよ。多分伸びねーし」
「なるほど」
「君島がヨレヨレの無精髭生やしたジジイになるとこ、見たかったけどな。お前も生えねーんじゃ仕方ないか」
(それって、歳を取っても一緒にいること前提ですよね?)
遠野が当然のように話すことに不意打ちを喰らっているのを、彼は気づいているのだろうか。君島は慌ててリビングへと向かう背中を追った。
End.