GOLD「ちょっと、起きて!」
正月休み、実家の布団でぬくぬくと微睡んでいた遠野は、母に叩き起こされる。
「……ぁ?何?」
「キミ様からすごい荷物来てるんだけど!どうすればいい⁉︎」
「は?」
何故ここで君島の名前が出てくるのか。むくりと起き上がり、促されるまま居間に赴くと、クーラーボックスの中身を取り出しては感嘆の声をあげる祖母の姿があった。見てみれば、その荷物は遠野ではなく母宛てになっている。
「何だ、これ」
「蟹とか鮑とか、美味しそうな物が沢山入ってるのよ!ほら見て」
母に手紙を手渡される。どうやら荷物に同封されていたようだ。
『お正月はオードブルを作られるとお聞きしました。お口に合いますように』
見覚えのある、少し角ばっているが整った文字。そういえば、実家での正月の過ごし方を話したことがあるような気がする。
「あとこれ、こんな高そうな物いただいてもいいのかしら……こんなの初めて見たわ」
戸惑いの声に母の手元を覗くと、いかにも高級な木箱の中に、金メッキが施された真鍮のケースが入っていた。
「アルマス……ペルシカス……?」
開けてみれば、燦然と輝く小さな金色の粒がびっしりと詰まっている。神棚に飾ると言う祖母を制して、遠野は電話をかけた。
「おい君島、何だこの金色のは」
『金色?……ああ、アルマスですか。キャビアですよ』
「キャビアぁ⁉︎」
遠野の甲高い絶叫に母と祖母が肩を跳ねさせるのが、視界の隅に見える。
『オードブル、作られるんですよね?金色のキャビア、お正月ですし縁起が良いでしょう。使ってください』
「いやいやうちのはそういうのじゃねえから!カナッペ作れってか⁉︎」
『ええ。美味しいですよ?食べてみて』
「今か?」
『今』
恐らくここで実食しないと、この男は青森まで押しかけかねない。それを知っている遠野は、真鍮のケースの横にご丁寧に添えられたまたもや金色の細いスプーンでキャビアを掬い、口の中に放り込んだ。
『どうです?』
「ん……海の味?」
盛大なため息が聞こえてきたが、こちらに食レポを求めるのが間違っているというものだ。君島の小言を右から左に受け流しつつ、遠野はこのきっととんでもない値段がする代物をどう捌くべきか頭を回らせた。
End.