理由なんてない「おっ君島、今日もそれしか食わねえのか!」
「……ハァ」
ここ数日、合宿所のレストランで朝食を摂っていると当然のように向かいに腰掛けてくる男がいる。君島は大きなため息をついた。
「朝くらい、一人で過ごさせてくれませんか」
「アァ?それより俺の好きな処刑人の話、聞かせてやるよ」
「人の話、聞いてました?」
自分はとうに食事を終えたらしい。湯呑みだけを持ってやってきた遠野は、今日も処刑だの血祭りだの物騒な単語を朝から楽しそうに並べ立てる。周囲はこの光景に慣れてしまったらしく、誰も助けてはくれない。
「何度も言ってますよね、私は処刑など興味ありません」
「だからお前にも処刑の良さがわかるように、俺が話してるんだろ」
「どういう理屈ですか……」
人の話は聞かないし、自分本位な振る舞いには嫌気がさす。そもそも、遠野は自分の好きな物は相手も好きに違いないという根拠のない自信を持っている。それは彼が幼い頃から家族に肯定されて育ってきた証でもあるのだろうが、君島にとっては鬱陶しいだけだ。どんなに眉間に皺を寄せようと、甲高い声は滔々と語るのを止めない。
「……と、いうわけだ」
一通り話し終えて満足したのか、遠野は鼻を鳴らして茶を飲み干した。
「遠野くん、ずっと考えていたのですが」
「何だよ」
「確かにアナタにとって、私とダブルスを組むことはメリットがあるでしょう」
「ハッ、いきなりどうした」
君島は遠野を真正面から見据える。思ったことはすぐに口に出すくせに、何を考えているかなどわかったものではない。
「けれど、普段の私に付き纏っても、遠野くんにメリットはありますか?」
(そして私にも)
遠野は君島の顔をまじまじと見つめ、それから呆れたように言った。
「俺がお前といたいのに、理由なんているか?」
言いたいことだけ言って、彼はさっさと席を立ってしまった。取り残された君島は、目を見開いて固まる。やがてだんだんと熱を持つ頬。その理由は、まだ知りたくない。
End.