愛を以て愛を制す 私は自分のことを、献身的な性格だと思っていた。相手が望んでいることは期待以上ものを与えてあげたいし、それで喜ぶ顔が見られるのが何よりも嬉しかった。家族やファンから受ける愛に応えることが生きる喜びだった。私が相手にしてあげたいことが、相手も望むものだと思っていた。
だが、それはとんでもなく傲慢だったのかもしれないと気がついたのは、彼と出会ってからだ。彼は私がしてあげたいと思ってしたことに、必ずしも良い反応を見せない。それは彼が望むものではなかったからだ。
いっぽう、彼も私が望まないことを押しつけてくる。でも、私がそれを拒絶したところで彼は気にしない。自分がしたかったことだから、それに対して見返りは求めないのだという。私が常に見返りを求めていたことを暗に指摘された気がして苛立ったが、その苛立ちこそが己の未熟さであることもわからされて、また心を乱された。
「私はもしかして、自己中心的な生き方をしてきたのかもしれません」
「何だよ、今さら気づいたのか」
可笑しそうに鼻を鳴らす横顔が腹立たしかったが、反論できない。黙り込む私の頬を、彼の指先が撫でる。
「私が誰かのためにしていたと思っていたことは、実は全部自分のためだったのかも、しれません」
「人間なんてそんなもんだろ」
当たり前のように言うものだから、思わず眉間に皺が寄る。
「俺も、俺とお前にしか興味ねーもん」
だから同じだ、と彼は言うが、私と彼の間には絶対的な違いがある。その溝は一生埋まることはないだろうが、少しでもその隙間を満たすために、悔しいけれど私は彼から愛を知っていくのだろう。
End.