そんなきみもかわいい いつからだっただろう、食事のときに彼の視線を感じるようになったのは。
「……なんですか」
「いや、別に?」
今日のメニューは焼き魚に卵焼き、ほうれん草のおひたし。しっかり鰹節で出汁をとったお味噌汁も、ほっと心が安まる味だ。手先が器用な彼は料理も上手い。食事は必要な栄養を摂るだけのルーティーンだったのに、いつの間にか楽しみなひとときになっていたことは、まだ秘密。
「別に、と言うわりには視線が刺さるんですが」
「んー……なんか、メシ食ってるお前見んの、好きなんだよな」
そう言って目を細める仕草がどうにも面映く、まだ飲み込んでいなかったお米が口の中でじわっと甘くほどけた。これは、彼が私のことを『かわいい』と思っている表情。傲慢でも自意識過剰でもない、事実だ。
「……人を見せ物みたいに」
「見られんのがテメェの仕事だろ」
「今はオフの君島育斗です」
「ハッ、そりゃそうか」
セットする前の少し跳ねた後ろ髪を撫でてくる手を払い除けると、また笑われる。
「もう……」
でも、彼の気持ちもわからなくはないのだ。目の前でご飯をもぐもぐと咀嚼する顔を見ている私も、きっと同じことを考えている。
「なーにニヤけてんだよ」
「ニヤけてなんかいません、失礼な」
End.