練習て「暑い」
そう呟いた桃吾の息は白かった。
「さすがにないやろ」
冬至も過ぎ、少しは日没が遅くなったとはいえ外はもう暗い。
桃吾はグラウンドコート()も着ずに片手に持ち、熱を逃したいのか手櫛でわさわさと髪を梳かしながら歩いていた。
「ただいまー。円もおるわ」
「おかえり。円、いらっしゃい!」
桃吾の家の玄関を開けると、桃吾のオカンが返事をしながら忙しげに横切って行った。
桃吾によると、今日は淳吾が熱を出したため彼女が病院へ付き添って行ったはずだし、町内会の用事もあったそうだ。父親は休日出勤。
淳吾にお粥でも食べさせたのか、キッチンカウンターには小ぶりな丼が載っていた。
夕飯はカレーにすると聞いていたから、円を家に誘った。
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