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    まさん

    とても人見知り
    トンデモ設定のオンパレード
    アイコンは白イルカのはずだった

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    まさん

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    🦐を庇ってモブ生徒の魔法を喰らった🦈が五感シャットダウンされた話

    ………いま、先輩が、わたしを庇って倒れた。

    とある生徒が叫んだめちゃくちゃな呪文は恐ろしいことに解除の方法もわからない厄介な呪いを彼に振り掛けた。
    大きな身体が地面に倒れていくさまがスローモーションのようで、わたしは何も考えることなく隙間に自らを滑り込ませて先輩の頭だけはかろうじて守った。この時に捻った足首の痛みなんて、今は構っていられない。
    生徒は「俺は悪くねえ」と上擦った声で叫びながら走り去っていったけれど、その方向に柔らかく微笑むジェイド先輩が待ち構えていて、さらには彼の手刀で弾き飛ばされて壁にめり込んだ。

    「せんぱい、大丈夫ですか」

    先輩はぎゅうっと身体を縮めて、浅く早く呼吸を繰り返している。何かを探すようにもがく手を慌てて握って、あまりの握力で思わず目を瞑った。震える彼の、泣きそうな声にまた目を開ける。

    「小エビちゃん、どこにいんの?ここ、真っ暗で怖い、」

    「せんぱい、ここにいますよ。深呼吸してみてください」

    「ジェイド、アズール、どこにいんの?助けて、」

    ぎぢ、と骨が軋むくらいの握力は弛まず、わたしは件の生徒のこめかみを踏みにじるジェイド先輩を呼んだ。

    「フロイド、聞こえますか」

    「ジェイド!アズール!小エビちゃん!いるなら返事してよぉ!」

    その悲鳴にぞっとしたのは、わたしだけじゃなかった。ぱちりとまばたきをひとつしたジェイド先輩の表情が少しだけ強張った。たぶんこの表情は、関わって暫く経たないとわからないくらいの、ささやかなものだけど。

    「視覚、聴覚………触覚は生きているのでしょうか」

    ジェイド先輩は自分とは正反対の色を持ったオッドアイの前に手をかざしてみる。揺らがない視線は、わたしのお腹の辺りで微動だにしない。それから髪に触れて、ぴんと一束引っ張ってみてもそれに対する反応がない。

    「う、く、」

    握られた手からぱき、と軽い音がした。そろそろ外さないと鬱血するかもっと多めに砕かれるか、どっちかが予想される。ジェイド先輩も枝が踏まれて折れるような音を聞いて彼の手から逃がそうとするけどびくともしない。海の匂いがする髪を片方の手で撫でて、ずっと昔、母親がしてくれたように頬をくっつけてみる。ねえ先輩。わたしもジェイド先輩もあなたの傍にいます。だからどうか、怖がらないで。
    ゆらりと、先輩の近くに片膝着いていたジェイド先輩が立ち上がって、まるで兄弟そっくりな歩き方をして、それから。
    よろよろ立ち上がろうとしていた生徒の頭を吹き飛ばす勢いで、右足が空気を裂く音と一緒に真横に動いた。

    怖い音がした。とっさにまた先輩の頭に覆い被さるみたいにして上体を竦める。

    「こえびちゃ、あはぁ………いた、」

    ゆっくりと緩んでいく握り潰される一歩手前の手のひら。先輩の顔を見てみたら、ちゃんとわたしと目が合ってふにゃりと口角を上げる安心したような表情。

    「せんぱい、」

    「はあ、よかった、こえびちゃ、だいじょぶ?」

    何を、いきなり。大丈夫じゃなかったのは先輩なのに。強張ってるわたしの頬を大きな手、さっきまで握力を披露してたそれが確かめるみたいに撫でてきて。
    ずっと手は痛いけど。捻った足首も痛いけど。何より先輩がいつもみたいに弛んだ笑顔を浮かべてきたから。

    「なあにどーしたの。泣かないの。それより聞いてよ、さっきほんとヤバいとこいたんだって」

    よっこいしょ、と17歳には相応しくない言葉を呟きながら起き上がった先輩は、ふと向けた視界にわたしの青ざめた手を映したらしい。きょとんとまばたきを二回、それからわたしの顔を見て「どしたのこれ」と手を指差した。

    「フロイドが絞めていましたよ」

    ゆらゆら海の中を泳ぐような歩き方をしてたジェイド先輩は、普段と変わらないぴしっとした動きに戻っていた。また穏やかな感情しかなさそうな柔らかい笑顔、さっきとは違う雰囲気に、こっそり安心する。何となく、もうこれで大丈夫な気がする。

    「はあ?!ウソ、やべえ、とりあえず保健室行こ、立てる?いーや抱っこする」

    「絞めていた記憶はあるのですか」

    ごめんねえ。すりすりと頬をわたしにくっつけて甘ったるい謝罪をしてきた先輩はジェイド先輩に向けてぶつくさ文句を口にし始めた。ぶらぶら揺れる足がしくしく痛む。無事な方の手で申し訳程度に先輩のジャケットを摘まんで、保健室までの道のりを誰よりも遠く感じる。涙を彼の胸元で拭ったら少しは気が紛れたみたい。

    「ねーよ。ねーけど。つかさあ、アイツの魔法喰らった時さあ。真っ暗闇にオレひとりで、夜目利くはずなのに見えねーし、音も聞こえねーの。身体の感覚もわかんなくてマジふざけんなって話」

    「やはりそういった場合は術者を気絶させるに限りますね」

    「でも、左手になんとなく、何かがあってさあ。それ握ってないとホントに暗いとこと一体化しちゃいそーだったからそれだけ考えてた」

    あの時、先輩の手をとっさに握ってよかった、と思った。それだけで、名誉の負傷と胸を張れる。痛いことには、変わりないけど。

    「それが彼女の手です」

    「うー……ごめんねえ小エビちゃん。責任取るから許してぇ」

    先輩は保健室の先生に素直に「オレが握り潰しましたぁ」って言って二度見されていた。そんなわたしの可哀想な手は魔法でちょちょいと治されて、ついでに足首には湿布を与えられた。なんでも、一度に魔法で治せるのは一カ所だけらしい。わたしみたいに魔力がないヒトには、例え治療だとしても魔力を一定量超して与えるのは健康に良くないんだそうだ。よくわからないけど頑張ったで賞としてハッカ飴を貰った。あいにくわたしは苦手なので、そのまま先輩のポケットにそっと投入。

    「責任取るから許してぇ」

    同じことを繰り返した先輩がお詫びにとモストロラウンジに連れて来てから、わたしを手加減した腕力でぎゅっと抱き締めた。これはもしかして、はいかイエスと言わないとずっと言われることなのでは?

    「さっきのハッカ飴食べてみていいですか」

    「小エビちゃんミント苦手でしょ。責任取るから、許して」

    やっぱりそうだ。ところでジェイド先輩は?

    「ジェイド?気晴らしに山に行くって。ホント好きだよねえ。で、小エビちゃん、」

    「責任取って、大切にしてください」

    言われ続けるのも何だから、こちらから切り出してみたら。先輩のとびきり嬉しそうな、満足げな表情で、声色で。

    「ん、いーよぉ♡……あれ?」

    いちばん最初にわたしを呼んだこと、今更思い出してドキドキしてるので、あまり顔を覗き込まないでください。
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