The world is your oyster 王九は大哥に出会って、世界が何で出来ているかを知った。
世界はお菓子で出来ている。
イスはクッキーとウエハースで出来ていて、ビール瓶は飴細工で出来ている。人の腹からはイチゴジャムが出るし、そもそもが人の体は馬拉糕にシガレットチョコを指したものにすぎない。
お前は見たことがあるか?人の腕があんなに軽い音をたてて折れるのを。まるで、新しいクッキーのCMみたいにパリパリ折れるんだ。丁寧に擬音語のところは強調するように身振りを交え説明すると、王九は再現するように男の腕を曲がらない方向に曲げた。そいつはヤク中で、不遜にも大哥の薬を盗みに来た。勿論すぐに捕まって、大哥にさっさと始末しておけと言われたので、なんとなく話をしたい王九が貰い受けたのだ。
蒸し暑い倉庫の中に腕の折れる籠った音が響く。やっぱり大哥とおなじようにはできねぇなァ。王九は残念そうに呟いた。
王九は自慢げに話を続ける。
振り上げられたイスが大哥に当たった瞬間に粉になって舞うのを見たことがあるか?痛みに叫び呻く男に構いもせず、王九は話を続ける。
ビール瓶もおなじく粉々になる。相手がどんな刃物を振り回しても、つきだされた刃は大哥の手の甲で割られる。長すぎた羊羮みたいにぽっきりとだ。身振り手振りで大哥の大立ち回りを再現してみせた。
大哥自体がお菓子なのかもしれない。大哥の動きを思い出して王九はそう思った。
至近距離からイスを投げられて、近くにあったテーブルを蹴り登り、宙返りでよける。銃弾が飛んできたのをおなじようには避けたのも見たことがある。王九は指先をすぼめて男にゆっくりとつき出す。銃弾を表現しているつもりだ。指先が男につくかつかないかというところで、王九は男の頭を抱え込んでぶんまわした。男は中空で一回転して、どさりと落ちた。あの巨体でそれだけの動きをするには、中身が綿飴でないと説明がつかないよなぁ。泡を吹いている男に王九はしみじみと語りかけた。
説明がつかないといえば、大哥のかけ声だ。攻撃時に大哥は声を出す癖がある。そんなことしては攻撃するタイミングが丸わかりだから簡単に防げてしまうと思ったがさにあらず。くると思った時点にはもう食らっているのだ。ハイッハイッと高音で大哥の声真似をすると王九は男に突きを繰り出した。重い突きが男の胸や腹にはいる。
「九哥……九哥、そいつもう息してないっす」
興奮した顔で喋っていた王九は、蛙仔の声にすっと真顔に戻ると、物言わぬ塊になったそいつと蛙仔の顔を二度三度交互に見ると、そいつを蛙仔に渡して無言で出ていった。