パフィー・ストロベリー・フィールズ ――斯くして、その機会は遠からず訪れた。
「わたしたち……閉じ込められちゃった……?」
「そのようだな……」
がくりと肩を落としたことで輪をかけて小柄に見える英雄を見下ろし、エメトセルクは嘆息する。
キタンナ神影洞の再調査をしたい、その道程でもっと昔の話を聞かせてほしい。そう言い出した彼女に殊勝な心がけだと同道し、遺跡に足を踏み入れた矢先のことであった。前回の調査時には存在しなかったというトラップが発動し、二人は瞬く間に、辛うじて身じろぎができる程度の狭さの箱の中へと閉じ込められてしまったのだった。
箱の内壁はいたく頑丈で物理的に叩き壊すことができず、何らかの妨害により魔術行使も叶わない。――正確には、無理筋を通せば真人たるエメトセルクには魔力操作が可能ではあるが、箱と結界の双方を破壊するとなれば、分かたれた命である英雄は間違いなく重傷を負うだろう。別段助けてやる義理はないが、未だ裁定の最中である。そのような理由で命を落とされでもしたら堪ったものではない。
しかし――しかし、だ。この状況は非常によろしくない。
「ね……何か、わかった……?」
先日の『事故』の焼き直しが如く、またしても彼女を、押し倒している。
その状態で眼前の壁に書かれている、箱の解錠条件が最悪だった。
「解錠条件が書いてあるな」
「ほ、ほんとう!? 何て書いてあるの?」
「……られない箱」
「へ……?」
「……抱擁しないと出られない箱、だ」
読んで字の如しである。抱擁とは文字通り抱き合うことであり、それ以上でもそれ以下でもない。某アラグ帝国にあったりなかったりした『性交しないと出られない部屋』などという人権軽視のトラップと比すれば、ジョークとしては比較的マシな部類に入るだろう。本当に抱擁だけで済むのであれば、の話だが。多少なり意識している相手と密着した程度で劣情を催すなど、これだからなりそこないは――そう思っていた時代が、エメトセルクにもあった。ほんの数分前までのことだった。
お誂え向きと言わざるを得ない仄明るさの箱の中で、見えているのだ。距離の近さへの照れからか紅潮した女のまろい頬だとか、不本意と不注意が引き起こした事故で柔さを知ってしまった、胸の膨らみの一部だとかが。何だってこの英雄はデコルテの大胆に開いた戦装束を纏っている。一般的な感性を鑑みて似合っているとは思うが。
「……抱いてもいいか」
――煩悶に頭を抱えながら絞り出したせいで、言葉を間違えた。
「そ、の言い方は……語弊があるんじゃ、ないかな……?」
正しく『語弊』の方を想像してしまったらしい英雄が、耳まで真っ赤にしてふるふると首を振る。