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    henkotu_kasi

    @henkotu_kasi

    表には出せないけど、別垢に投げるのもなんかな…という、自己満足の落書きをここに投げる予定。表の小説と比べると自我が強い。

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    henkotu_kasi

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    サキ。

    暗闇の取るに足らない会話「はぁ…」
     一寸先は闇。深夜にもなり、雲に月明かりを隠された今、オフィスの屋上は真っ暗になっていた。辺りは車の音しか聞こえず、あるのは自分の身体と、現在座っているベンチ、そして手に握られた1本のペットボトルだけだ。息を吐けば、その空気が外気に冷やされて、白く染まった。
    「…あーあ。また先生、こんなところにいたのか。寒くないのか?」
    「サキか。いいや、寒くはないね。むしろ、そっちの方が寒そうだが」
    「…まあ、そうだな。流石に、冬ともなれば」
     彼女も同じようにベンチに座る。その表情は、ヘルメットで隠されて分からない。ただ、恐らくは私と同じだろう。
    「なんでこんなところにいるんだ?」
    「なんとなくだ」
    「変なやつ」
     サキがふっ、と笑う。それを見ながら、ペットボトルの中の液体を口に放り込む。それを見た彼女は、はあ、とため息をついた。
    「なんだそれ」
    「水だ。身体の中も冷やしたくなるんだよ」
    「本当に変なやつ。酒じゃないのか?」
    「私がアルコールクソ苦手なの知ってるだろ」
     そういうと、彼女ははははっ、と笑顔になった。彼女の前でジュースと間違えて酒を飲んで、そのまま吐き出したんだったか。そのまま体調を崩して、肩を借りて運んでもらったことは記憶として鮮明に残っている。頭の中ごちゃごちゃに掻き回された感覚がして、やっぱり酒はクソだって言った。
    「…はー。こんなだらしない大人に付き合ってていいのか?サキ」
    「そのだらしない大人を説得するのが当番の仕事だろ。早く寝ろ」
    「はいはい、あと30分で寝るからよ、先行っててくれ」
    「それで素直に応じるとでも思ってるのか?」
    「…はぁ。応じてくれたら楽なんだけど」
    「無駄だ」
     健康のためなんだ、だなんて言って。仕事で身体がズタボロなのはすでに知ってるんだろうに。もう今になって睡眠不足の一度や二度は問題ないだろ、なんて言っても、そんな言い訳を通してくれやしない。あーあ、こいつは面倒な奴に育っちまった。これだから真面目ってやつは嫌いだ。
    「先生はなんでいつもここにいるんだ」
    「眠れないからだ。瞼を瞑っても、ずーっと考えてばっかで落ち着けやしねえ。だから外に出て、こうして身体を冷まして、眠ることに集中しようとしてんだ」
    「そうか」
    「添い寝でもしてもらって、思考を全て吹き飛ばしてくれりゃあ幸せってやつなんだが」
    「ばっ…セクハラだぞ、先生」
    「だぁらこうしてんだ」
     ビルの光が一つ消えた。仕事を終えたらしい。ここに来てからどれだけ時間が経ったか分からないが、少し長居しすぎたかもしれない。ごくりと水を飲み干して、それでも白い息を眺める。可能ならばこのまま朝日が出るまでずっと眺めていたいものだが、彼女が許さないだろう。
    「…そろそろ寝るか。身体も十分冷えたし、頭も落ち着いた。ありがとよ、サキ」
     立ち上がり、後ろにあるドアに向かおうと、身体を回すと、ぐっ、と何かが引っ掛かったような気がした。そちらを見てやれば、彼女が袖をつかんでいた。
    「…まだここに居たいのか?別に良いが」
    「いや、違う」
    「じゃあ、なんだ?」
    「…えっと、さっきの話だ。先生、添い寝、って…」
    「冗談だぞ。まさか、本気か?」
    「おい!」
     彼女が声を上げ、怒りを露にした。その彼女の言葉にはーあ、とため息をつくと、降参するように手を上げてやった。
    「わーったわーった。それじゃあ護衛頼むよ。眠ってる時に刺されるかもしれねえからな」
    「…本当に…」
    「なんだよ」
    「うるさい!早く行くぞ!」
    「いででで、いてえって」
     ぐいっ、と腕を引っ張られる。添い寝が安眠に繋がるなんてことはあくまでネットの言葉でしか聞いたことがないが、まあ、大丈夫だろう。どうせ変わりはしない、と思い、彼女の背中を追った。



     ああ、いや。変わることはあまりにも多かった。柔らかい抱き枕だったり、良い香りのアロマだったり、暖かい湯たんぽだったり。確かに、安眠は出来そうであった。問題として、それがサキという生徒から出ているものなのだが。
     要約すれば、眠れなかった。睡眠不足である。
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