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    srsgNoah

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    srsgNoah

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    オレンとリケーレとホワイトクリスマスの話。間に合ってないけど間に合ったことにしてください。たぶん先導者よりは前。一旦CP要素はなしです

    #オレリケ

    純なる白に溶けずヴィクトリアに降る雪を見て、なんと寒々しいものなのだろうと思った。白く降り積もる結晶は、触れれば見た目よりもずっと冷たい。まるでどこかの機械めいた執行人のようだ。そう考えると芋づる式に別の男の白々しい笑顔が脳裏に浮かび、吐いた息もまた白く視界に映る。
    白。ラテラーノの無機質な白とは違う、だがずっと冷たい白だ。オレンは少し緩んでいた手袋をきちんと嵌め直すと、わざとらしく肩を縮こませた。故郷にも寒くなると時折雪が降るが、ここまでのものではない。昨日の夜から降っているらしく、空から降る一つ一つは大きくないものの、長時間降り続けているために街にはすっかり積もっていた。その寒さのせいか外に出ている人もひどく疎らだ。
    「ホワイトクリスマス……ねえ」
    そんな呑気なことも言ってられねえよな。独り言にしても虚しくなるだけなので、続く言葉は口には出さなかった。ロンディニウムの一件があってから、ヴィクトリアの公爵たちは常に忙しくしている。そんな中でも教皇への書状を受け取り、それが無くとも定期報告のためラテラーノへ帰る必要があるのだが、オレンはなんとなく故郷へ足が向かないでいた。ラテラーノにおいて聖夜は他の国よりずっと特別なものだ。それに、ヴィクトリアに住むほとんどの人には聖夜を祝う余裕などないが、ラテラーノでは今頃多くのサンクタとリーベリが催しの準備をしているだろう。
    あの男も同じなのだろうか。そういえば奴がそうした催し事に参加している様子を見た記憶があまり無い気がする。と言っても、自分とあの男が一緒にいたのは随分と前で、そう長い期間でもなかったのだが。
    「……ちと面倒だが、仕事は仕事だしな」
    呟くと、また白い息が目の前に現れては静かに霧散していく。ふと空を見上げても月も星もない暗闇が広がっているだけで、そこから止めどなく降りてくる白が大地を飲み込もうとしているようにも感じられた。


    「で、わざわざ仕事終わりに会いに来てくれたのか?」
    「暇になったからな。この時期は公証人役場も忙しそうだから、様子を見に来た」
    「暇なら手伝ってくれよ。まだ全然溜まってるってのに、新しい申請書がひっきりなしに来るんだ……年末だからってなぁ」
    「役場の仕事だろ、レガトゥスに押し付けるなって」
    飄々とした笑みを浮かべながら、オレンはデスクの上に積まれた書類の一枚を気紛れに手に取った。内容はありきたりな――ラテラーノ以外では見たことも聞いたことも無いが――施設の爆破許可申請で、特段読んでも面白いものではない。オレンは公証人役場に務めた経験はないものの、生粋のラテラーノ人ならば誰でも見慣れた、あるいは聞き慣れたものだろう。
    「毎度思うが、こんなのを処理するのも執行人の仕事なのかよ?」
    心底呆れた様子でそう言うと、紙を山の中に戻した。書類が積まれたデスクの前に座る、一見すれば事務員とは思えない体格の良い男は頬杖をついて答える。
    「もちろんだ」
    「だが、フェデリコの奴がこういう事務作業をしてるのは見たことないぜ」
    「あいつは荒事の方が得意だからな。と言っても、事務作業ができないわけでもないけど」
    話しながらも、体格の良い男――リケーレは片手間に書面へ目を通し、下部に用意されている所定の箇所にサインをした。そうした『仕事』の様子を眺めつつ、旧友の発言にオレンはやれやれと肩をすくめる。
    「よく言うぜ。お前だって『荒事の方が得意』だろ?」
    「……そうだとしても、俺はフェデリコとは違うさ」
    間に置いた沈黙には特有の陰りがある。オレンにとって、どうもやや特殊な出自であるらしいリケーレの過去や考え方については特に興味がない。ただこの男とは妙な縁があり、時折こうして他愛ない会話をするのも悪い気分ではなかった。ラテラーノの万国トランスポーターとしての顔見知りは多く居るが、友人と呼べる者はそう居ない。リケーレは公証人役場の執行人だが、似たようなものだ。そういった関係だった。
    「雪が降ってるのか」
    視線と手を机の上で絶えず動かしながら、リケーレはおもむろに尋ねた。そう言われて初めて、オレンは室内でも羽織ったままの外套の肩が少し濡れていることに気づく。わざわざ混ぜ返すこともない。
    「ああ。積もりはしないだろうがな」
    答えると、執行人はどこか遠い目をした。
    「……俺はさ、聖都に来て初めて雪を見たんだ。前に住んでたところでは、降るのは雨だけだった」
    「……何の話だ?」
    「暇なんだから、思い出話くらい良いだろ」
    単純作業の中で気でも紛らわしたいのだろうか、男はいつかの話を語り始める。ラテラーノへ来てから数ヶ月経ったある寒い夜、寝る前にふとカーテンの隙間から窓の外を見たリケーレは、見知らぬ白いものがちらちらと降っているのを見た。それから不思議と誘われるように窓を開け、吹き込んでくる風の冷たさに身を縮こまらせたが、眼下に広がる街並みとそこに降る雪とが織りなす風景に見惚れたのだと。そして、奇しくもそれは聖夜の前日だった……まるで御伽噺みたいな話だが、そもそもラテラーノ自体が御伽噺のような国だ。
    丁度リケーレがそれを語り終えたところで、閑散としていた執務室に突如、甲高い女性の声が響いた。
    「ちょっと、リケーレ! まだ仕事をしてるの?」
    「あー、見つかっちまったか」
    リケーレの同僚と思われるサンクタの女性はいかにも外出用という服装や化粧をしており、仕事を終えて街へ繰り出すところだったのかすでに出ていたのかはわからないが、大方何か職場に忘れ物でもして戻ってきたのだろう。
    「今日は聖夜なんだから、もう上がっていいって言われたでしょ」
    「んなこと言ったって、まだこんなに残ってるんだぜ」
    「何も今日中に片付けることないんだから。……はぁ、レガトゥスのあなたも、リケーレを遊びに誘いに来たんじゃないの?」
    「へっ?」
    唐突に水を向けられ、オレンは珍しく気の抜けた声を上げた。どちらかと言うと自分は、こんな時期でもどうせ仕事をしているだろうリケーレを揶揄いにきただけのようなものだ。
    「そもそも、こんな書類仕事は執行人の業務内容じゃないのよ」
    「まぁ、そいつには同感だね」
    やれやれと肩をすくめる彼女の言葉に、オレンは思わず頷いてしまった。隣で苦笑いを浮かべていたリケーレは一瞬だけ眉を顰めて旧友を睨む。しかしすぐにその表情を笑みに戻すと、ペンを机の上に置いて静かに立ち上がった。
    「はいはい、わかったよ。確かに俺一人だけこうやって辛気臭く仕事してるのも良くないしな。よし……行くぞ、オレン」
    「……は?」
    「ええ、そうすると良いわ。机の上もそのままでいいから。私は向こうに忘れ物を取りに行くから、後でここの鍵も閉めておくわね」
    嫌な予感がしたオレンは身を引こうとしたが、もちろんその行動を予測していたリケーレはそれより早く肩に腕を回して引き寄せた。サンクタの女性はその様子を見て朗らかに笑い、ついでに両者の退路まで絶ってしまうと、踵を返して執務室の奥へと消えていった。
    彼女が鍵を閉めに戻るまでに帰っていなかったら、きっとまた面倒なことになるだろう。互いにそれを感じた二人の男は一瞬顔を見合わせ、そして弾かれたように顔を逸らす。
    「……ホワイトクリスマスなんだろ? 責任取れよ」
    「まさか、本当に男二人で聖夜の街に繰り出す気なのか?」
    「そうするしかないだろう。……ほら、あの人が戻ってくる前にさっさと出ちまおう」
    机の上に置いていた手帳とペンだけを足元の鞄に仕舞うと、リケーレは自席を離れ、スムーズに執務室の出口へ向かって歩いていく。少しの間その背中を恨めしげに眺めた後、オレンは押し黙ったまま遅れてついて行った。


    降る雪の勢いはそう強くない。数日前、ラテラーノへ戻ってくる前にヴィクトリアで見たものよりずっと優しいというか、厳しいものではなかった。粉雪とでも言うのだろうか。空から降ってくる一つ一つが細かく清らかで、例えば塀の上に積もったものに触れてもふわりと柔らかい。ラテラーノは気候の面においても恵まれているのだろうか。
    オレンの隣を歩く男は、冬用の外套を羽織って首周りには薄い毛糸のマフラーを巻き、遠くの街並みや道行く人を眺めていた。どこか心ここに在らずといった様子に見えるが、腕はオレンのそれと組んで、逃げ足の速い友人をこの場に留め置こうとしている。
    「賑やかだな。皆、歩いているだけで楽しそうだ」
    「リケーレ……お前、外に出たくないから仕事を口実にしてたんじゃねぇのかよ?」
    「うん? ああ……そんなこともあったかな」
    ほとんど肯定でしかないはぐらかしの台詞を吐きながら、リケーレは再び歩き始めた。半ば腕を引かれる形でオレンもその横をついていく。
    「……なるほど。確かに、こいつは……」
    暗い夜空を見上げて、しんしんと降る雪を眺め、文字通り七色に輝く聖夜の街並みと祭りめいた喧騒に目を向けたリケーレは、ぽつりと独り言に呟いた。言葉に続きはなく、彼の真意を図りかねるオレンは、自分よりいくらも背の高い男を下から睨め付ける。そしてわざとらしく、一つ溜め息をついた。
    「言っておくが、俺は外から帰ってきたばかりで疲れてんだぜ。あの中に入っていくなんて御免だからな」
    「ああ、俺だってそうさ。だから、その辺ででかいケーキでも買って帰ろう」
    「……何言ってんだ?」
    「いいから付き合えって。まぁ、どうしても一人で過ごしたいってんなら構わねぇけど……」
    そう言ったリケーレは初めて、まっすぐにオレンと視線を合わせた。不意に正面から見据えられ、警戒心の強い男はつい瞳を逸らしてしまう。時折この男には何もかも見透かされるような気がして、胸がざわざわした。サンクタの共感とは違う、もっと本能的なものに対する予感だ。
    リケーレは相手の渋い顔を眺めると、にっと人の好さそうな笑顔を浮かべて、組んでいた腕をぱっと離した。
    そして、改めて白い手袋に包まれた手のひらを差し出す。
    「悪くない提案だろ?」
    相変わらず、この男が何を考えているかはわからない。光輪が彼の感情を伝えてくれたとしても、その奥にある考えを理解できるとも思えない。不思議な気分だった。
    「ま、そこまで言われちゃあな」
    オレンは皮肉げな笑みを浮かべ、差し出された手を弾くように上から叩くと、街の方へ一歩先に踏み出した。それから一度振り返って、どこか投げやりでもある様子で告げる。
    「寒いし、さっさと美味そうなやつ見つけて帰ろうぜ」





    //余裕があったらこの後の話をオレリケにしたい
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