オンリーの文章途中まで どうして僕を連れてきたの父さん、街になど。
どうして僕を引き離したりしたの、海から。
(ガルシア・ロルカ『陸の船乗り』内『海』より抜粋)
冷たく、薄暗く、仄暗い水の奥底から歌が聴こえている。囁くような旋律は大海の慈悲を感じると同時に耳を劈くような悲鳴のようにも感じる。
此処は海だ。シエスタの様な見せ掛けの海ではない。正真正銘イベリアの…俺の還るべき…。
「ブラザー、起きてる?」
ふとソーンズが我に返ったのは長閑な丘陵地帯をガタガタと走るジープ上だった。太陽の光が降り注ぐ草原は先程まで幻視していた水面とは似ても似つかぬ平穏そのものだ。
「眠ってはいない」
「ちょっと、嘘はよくないよ! じゃあさっきまでの僕の話覚えてる?」
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