お話してるだけ。「あー、やっぱり後ろが跳ねちゃってるかなあ」
テーブルの上に置かれた、大きく豪奢な鏡を覗き込みながら、カーラックが独り言ちた。朝起きた時からどうにも直らない後ろ髪の寝癖を、うーんと唸りながら何度か撫で付ける。その度に、しつこく飛び出た髪の毛がぴょこぴょこと跳ねた。直る気配はない。
「君の髪の威勢がいいのは、いつものことだろう。大して気にならないが」
鏡の横の椅子に腰掛け、一人本を開いていたアスタリオンが、見かねたように声を掛けた。カーラックは、「そう?」と鏡から視線を外しアスタリオンを向いたが、手はなお未練がましく寝癖を押さえている。
「少し跳ねているくらいが愛嬌があるんじゃないか、小さなお子様のようで」
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