白と青のコントラストが綺麗な季節になった。
見上げれば入道雲が発生している。時期に激しい雨が降るかもしれない。昼食をとり終えたし、このむせ返るような暑さが少しでも和らぐのなら雨も悪くない。湿気は勘弁して欲しいが。猫っ毛の五条にとって、湿気は天敵なのだ。
高校三年の夏といえば、大学進学を目指す者にとっては大事な時期である。五条もまたその一人なのだが、それよりも大事なことが五条にはあった。
――いいかい、悟。虎杖は悟のことをこれっぽっちも恋愛対象として見ていない。一ミクロンもだ。まずは、虎杖の意識を悟に向けることが重要だ。
「んなことは分かってんだよなあ……」
飲み終えた紙パックのジュースのストローを噛みながら大きな入道雲を睨みつける。恋愛対象になっていないことくらい、当の本人が一番分かっているのだ。知りたいのは、虎杖の意識をどう自分に向けさせるかなのに、肝心な方法を夏油に聞けば
――私が知るわけないだろ。悟のが付き合い長いんだから、どうすればいいか分かるんじゃないのかい? まあ分かってないから片想いなんだろうけど。
と爽やかな笑みを浮かべながら言ってきたので「お前、本当に俺の親友か?」と五条は思わず声に出した。
五条が大学へ進学すれば、生活リズムが合わないのは目に見えている。今のように朝、挨拶を交わすために大周りをして一年の下駄箱に足を運んだり、やることないからと放課後に漫画を読んでいるフリをして虎杖の部活が終わるのを待ち一緒に下校したり、立ち入り禁止の屋上で一緒に昼食をとったり。同じ学校に通っていても、学年が違うだけで割と会わないもので。それが大学に行けばどうなるかなど、言わずもがなだ。
「しっかし悠仁のやつ、おっせーな」
いくら一年は一階に教室があっても、普段なら三階に教室のある五条より少し遅れて来るくらいなのに、三十分経った今も来る気配がない。お陰で五条は昼食を食べ終え、ジュースも飲み切ってしまった。スマホを確認するも、何もメッセージはない。今朝、下駄箱で挨拶をしたから、学校にはいるはずだ。もしかしたら体調を崩し早退したかとも思ったが、虎杖の性格ならその旨を連絡してくるはず。虎杖が来ない理由がさっぱり分からないまま、せっかくの二人きりの貴重な時間が一秒、また一秒と過ぎていくのに苛立ちを隠せなくなり、メッセージを送ろうと連絡先から虎杖を選んだ瞬間、屋上の扉が勢いよく開き、会いたかった人物が視界に飛び込んだ。「おっせーよ」そう文句を言ってやろうと五条が口を開いたときだった。
「せ、先輩っ!!」
五条の文句よりも早く大きな声で虎杖が叫びながら駆け寄って来た。
「んだよ、おっせーよ」
文句の一つや二つ言ってやろうと思っていたのに、不覚にも駆け寄ってくる虎杖が可愛く思えて、つい小さく控えめな文句になってしまった。これではまるで拗ねているみたいだと、子供じみた言い方になったことを悔いていると、耳を疑う言葉が五条の鼓膜を震わせた。
「俺! か、彼女できた!!」