シネコン父水(1) 眩しく照りつけるスポットライトと鳴り止まない万雷の拍手から逃れるようにして、二人で俺の自宅アパートへ駆け込んで小一時間。
玄関の扉が閉まった瞬間、明かりをつける間も惜しんでキスが始まったが、お互いの商売道具を収めたケースをそっと床に置く理性は辛うじて残っていた。そこから先の記憶は既に曖昧なのに、既視感だけははっきりと覚えている。
「どうにも……ここぞという大舞台に立ったあとは気が昂ぶっていかんな」
俺のすぐ隣でシーツに沈んでいたゲゲ郎が俯せになって頭を掻く。男二人には狭すぎるシングルベッドは、下手に寝返りを打つとどちらかが相手を蹴落としそうだった。
「へえ、お前でもそんな風に思ったりするのか」
仰向けでぼんやりと天井を見上げていた俺は、首だけをゲゲ郎に向けてみた。枕元に灯した淡い光の中で、困ったような微笑みが返ってくる。
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