これまでも、これからも 恋人の姿が見当たらない。
ガラスの向こうでは、悠々と多種多様な魚たちが泳いでいる。水槽のライトアップのためか館内は全体的に照明が抑えられており、かなり薄暗い。
慌てて辺りを見回すも、休日の水族館は老若男女でごった返しており、それらしき人影は見つけられない。
つい先ほどまで、「あれは何?」「あれは鮪」「じゃああれは?」「鯖だ」「なあ兄ちゃん、今夜は魚料理にしようよ」「……」とあまりにも色気のない会話をしていたというのに。
ほんの少し目を離した瞬間、人波に流されてしまったらしい。
過去、彼と離れ離れになっていたときのことがフラッシュバックし、思わず駆けだしかけるが、寸前で足を止める。今の自分たちには文明の利器がある。スマホを取り出し、微かに震える手で画面を開いて通話ボタンを押す。つながらない。顔から血の気が引くのを感じた。
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