きみの隣は譲れない「どっちがいい?」
自分の半身はあろうかという巨大な、白と黒の兎のぬいぐるみを差し出してみると、無口な恋人は首を傾げてみせた。
昼下がりの繁華街。若者でごった返すゲームセンターは落ち着いた場所を好む彼にとって、少々刺激が強すぎたらしい。目を白黒させる可愛い恋人に大笑いしながら対戦型のシューティングコーナーに連れ込んだ。結果、互いに熱くなってしまい、十勝十敗。健闘を称えあいつつ、火照った頬を冷ますため、休憩コーナーで炭酸飲料を飲み干した。学生時代以来だったようで、飲みなれないものに軽く咳き込む背中をぽんぽんと優しく叩いてやる。
「次は何する? やってみたいものとかあるか?」
思案気な顔で辺りを見回したのち、彼が指さしたのはクレーンゲームだった。どうやら釣り下がっている小さな兎のぬいぐるみが気になったらしい。
俺の白菜ちゃんは本当に可愛い。
うっとりしながら顎を擽ると、恥ずかしがりやの彼は耳元を赤くして俯いた。そんなところも心底可愛い。
クレーンゲームは集中力の高い彼にとってはさほど難しくはなかったらしい。あっという間に、目当てのぬいぐるみを落としてみせる。手を叩いて大喜びをするこちらを尻目に、恋人の快進撃は止まらない。次々と色とりどりのぬいぐるみを落としたところで、店員より待ったがかかった。
「こちら、本日の記念品です!」
これ以上取られると赤字になることを察知したのだろう、笑顔とは裏腹に店員は冷や汗をかいていた。どうやら記念品と引き換えにもう帰ってほしいらしい。
どちらか好きな方をどうぞ、と提示されたのは、自分たちの半身はあろうかという巨大なぬいぐるみだった。
「どっちがいい?」
尋ねると、彼は難しい顔で黙り込んだ。どうやら吟味しているらしい。
「きみは、どちらが欲しい?」
逆に尋ねられて考え込む。
「そうだな、黒もいいけど、白もお前の色っぽくて好きなだなあ」
そうか、と彼は白を選ぼうとする。
「それにこんなに大きいと、毎晩抱き着いて一緒に寝れるな!」
名案! と喜んでみせた瞬間、ぴくりと眉を動かした恋人は一切躊躇わず店員に告げた。
「景品は結構です」
呆気にとられる店員を置いて、彼のとった大量の小さなぬいぐるみを手に二人で店を出た。
にやにやしながら顔を覗き込む。
「なあなあ兄ちゃん、もしかしてぬいぐるみ相手に妬いたのか?」
「……」
可愛い恋人の染まった耳たぶが答えてくれる。
それはもう、聞くまでもないことだった。