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    荒木荘 カーズとDIOのわちゃわちゃ 書きかけを発掘

     木枯らしの吹く季節のアパートに、ひと際大きな音が響く。閑静な住宅街には、およそ似つかわしくない破壊音である。日没直後の薄闇の中、こぢんまりと建つアパートの一室で、その音を出した張本人は、ぎょっとした表情してさっと顔を上げた。それまで、部屋の外まで響く声で、きゃあきゃあと騒いでいた興奮の心を一瞬で冷やし、浮ついた気持ちをたちまちに現実に引き戻すのは、目の前で事件が起こったからである。また吉影に怒られる、という考えが咄嗟に頭を掠め、DIOは、内心ひやりと冷や汗をかいた。いつものことながら、なにかしでかしてから、初めてそのことの重大な様を理解するDIO、このときも、はっと我に返ったのは、部屋の壁に穴を開けてからであった。
     この日、DIOが起きてみれば、カーズのほかにはひとが見当たらず、ほかの者は出払っているようだったので、これ幸いとばかりにふたりではしゃいで回って、おふざけが過ぎて、しまいには、部屋の壁に穴を開けるまでに至ったのだった。つい先日も、襖を破り、壊し、折り曲げて、吉影から大目玉を食らったばかりである。今後は部屋の中で遊ばないと反省してみせた舌の根も乾かぬうちに、このような事件起こしたら、今度は、説教だけでは済まされないかもしれない。怒った吉影は、怖い。その隣で、無表情に控えるキラークイーンも、怖い。命の、危機。
    「どうする。」
     DIOが、縋るようにその顔をカーズへと向けた。
    「どうすると言われてもな。」
     冷汗三斗のDIOの隣で、困惑の表情しているカーズである。結論からいえば、どうにかしてとり繕わなければならないのだけれども、相手があの吉良である。凄腕の刑事みたいな勘と洞察力で、たちまちのうちにDIOやカーズのあくじを暴いてしまうのだ。いかに人間を超越したふたりといえども、吉良の前ではしおしおとお縄にかかるしかないのだった。
    「貴様のスタンドとやらでどうにかできないのか。」
    「私のスタンドは、無論、史上最強であるのだが、壁を元通りにする能力なんかは持っていない。貴様こそ、なにかないのか。究極生命体なのだろう。」
     おい、究極生命体をなんだと思っているんだ、と、カーズが反論しようとして、なにか思いついたのか、きらりと瞳を輝かせたDIOに遮られた。
    「貴様が壁になれ。」
    「なんだと?」
    「壁と一体化できるだろう、貴様が壁になれ。それで誤魔化す。」
    「そんな姑息な手段では、すぐに見破られるだろうが?」
    「だが、これしか方法はないぞ!」
     また、ふたりで、纏まらぬぐちゃぐちゃの話し合いをしていると、がちゃりとドアノブの回る音。ふたりとも、どきりとして口を閉ざした。吉影だったら、一巻の終わり。どうか、ほかの者でありますように。説得すれば、どうにか黙っていてくれそうなプッチあたりでありますように。神頼みなんて、このふたりがするなら冒涜的、けれども、この一瞬だけは、ふたりとも、切なる願いを天に送っていたのだった。しんと静まるふたりの視線は、部屋の隅、短い廊下の先である。重く錆ついた音を立てて玄関の扉が開き、誰かが家へと入りこむ。
    「ただいま。」
     返事をする者など、この家にはほとんどいないというのに、律儀に挨拶をする声は、例のあのひとのものである。祈りもむなしく、いたずらっこには罰があって当然、天はふたりを見放して、帰ってきたのは吉影であった。まずいと震え上がったふたりは、押し合いへし合い、やれ、やらんの問答を無言で敢行、必死のDIOは秘密兵器、「ザ・ワールド」の能力駆使してカーズを壁にめりこませようと試みるけれども、ときが動きだしてみれば、カーズがどしんと壁に体当たりして、被害を広げただけに終わったのだった。突然のことにびっくりしているカーズをよそに、DIOは、逃げ出す方法を探るのに本気である。とにかく、カーズを生贄にして、「ザ・ワールド」で乗り切る。そう決断したDIOが、その能力を使うよりも早く、
    「おい!」
     びりびり耳をつんざく怒号が、DIOの背後を襲ったのだった。
    「また君たちは金のかかることを! 今月の家賃だって払えるかわからないのに!」
     結局、ふたりは、再びしこたま怒られることとなったのだった。怒る、と、叱る、とでは似ているようで、その本質はまるで違うのだと聞いたことがあるけれども、このときの吉影はそのどちらの性質も含んでいるようで、怒声の合間あいまに溜息が混じるのであった。正座をさせられて縮こまりながら、DIOは、その吉影の溜息をどこか遠くのことのように感じていた。や、ち、ん、という単語が、ふわふわと実感なく耳に入ってきて、外国語のように思われたのだ。
    「おい、ちゃんと聞いているのか?」
     ぽかんと呆けているような顔をしているDIOに向けて、吉影が苛立ちを露わにする。きつくきつく言って聞かせておかないと、このふたり、説教終わればけろりとして、なにごともなかったかのようにふざけだすのだ。ぷんぷん、沸騰しているやかんの湯気さえ見えるような吉影を前にして、異国の気分に陥っていたDIOは、ついと顔を上げて吉影を見つめた。ふとしたとき、DIOは無垢の顔をする。ほんの一瞬、いつものあくにんの顔が鳴りを潜めて、きゅっと口を閉じた幼気の顔をするのである。人相というものは、そのひとの中身を映す鏡、普段はその人格の通りに、わるいにやり笑いしていたりだとか、不機嫌そうに眉根を寄せていたりだとか、そんなような表情ばかりしているので、一層、その無防備な顔が際立って、ひとに、あら? と思わせるのであった。その顔で、つと見上げられた吉影は、些かへどもどしてしまって、咄嗟に、怒りを忘れてしまったけれども、その子どものような表情したDIOが爆弾発言、
    「吉影、いったい、やちん、とはなんなのだ?」
     もちろん自分ではそうしたことなど一度もないけれど、爆破されたときの衝撃とは、このくらいのものなのだろうか、吉影はそう感じて、膝から崩れ落ちた。
    「そんなことも知らんのか。」
     多大な精神的ショックを受けている吉影を置いて、カーズがぼけっとしているDIOを鼻で笑った。
    「この部屋は、契約を結んで借りているものだ。その契約の期間のうちは、その借り賃を払わねばならんのだ。」
     カーズが訳知り顔で説明するのを、頷きながら素直に聞いているDIOは、その素直さのまま、
    「なんだ、購入したものではなかったのか? ださいぞ、吉影。」
    「うむ、確かにな。」
     うむ、うむ、とふたりで頷き合って、くるりと吉影を見つめる。なにもかも、すべてはこのふたりのせいであるのに、当事者のふたりは瞬時に自分たちの失態を忘れられるようであった。これには、打ちひしがれていた吉影も憤然の意気を蘇らせて、ふたりを家から叩き出した。
    「すこしは、ためになるようなことをしろッ!」
     玄関先に放り出されて、吉影の足元で、ふたりはぎゃあぎゃあ大騒ぎ。自分たちのやったことを棚に上げて、「ひどいぞ!」「中に入れろ!」「吉影の冷血人間!」など騒ぎ立てて、吉影も近所迷惑など頭から抜け落ち、ひとつひとつの罵声にきっちり怒声でお返事。
    「私のした分の苦労をしたら、中に入ることを許可してやる!」
     そう怒鳴られて、またも自分を省みず、ふたりは、うんざりした顔を見合わせる。うげえ、面倒くさい、の顔である。それを直視した吉影は、ますますこめかみに青筋立ててお冠の様相。その頭に、柱の男のような、それとも、あくとうが落ちるといわれる場所に住む怪物の持つような、そんな角がにょきにょき生えてきたような気がして、慌てたDIOは、
    「なにをしたらいいのだ?」
     こんなに怒られるとは、吉影もよっぽど腹に据えかねたのだろう、今まではぎりぎりのところで耐えていた鬱憤が、ここへきて爆発してしまったようだ。その爆発の火が余計なものに引火しないように、下手に出て様子を見る姿勢になったDIOは、しおらしい態度をとってみせた。
    「金だ。」
     ぎろりと怒りの瞳でDIOを睨みつけながら、吉影が低い声でひとこと、そう言った。
    「金?」
    「そうだ。この壁の修理費と六か月分の家賃を持ってくるまで、この家に入ることを許可しない。絶対だ。」
     断固とした口調できっぱりそう言うと、吉影は、DIOたちの反論を聞く前に、ぴしゃりと扉を閉めてしまった。ぽかん、瞬きひとつ分、呆けたふたりは、揃って顔を見合わせる。今、なにをしてこいと命令されたのだろう。金を持ってこいなんて、ならず者みたいなことを、言いつけられたのか。それも、きっと、結構な金額である。きょとんと目を合わせた一瞬で、様々のことに思いを巡らせたDIOであったが、とりあえず目の前の扉に向かって叫んだことは、「外套をくれ!」であった。すぐさま、部屋の中で動き回る音がして、そうしたかと思うと、わずかに開けられた扉の隙間から、ロングコートが二着、ぽいとふたりの目の 前に投げ捨てられた。
    「まったく、あんなことを言って、どうしろというんだ。吉影め。」
     ぴゅうと吹く寒風に頬を晒し、うろうろと目的もなく彷徨い歩くふたりである。
    「靴磨きでもしろというのか? このDIOに?」
     ぶつぶつ文句を言うカーズに、DIOも同意して、唇を尖らせる。まともな方法で金銭を稼ぐという思考のないふたりは、しばし途方に暮れていた。金、金のあるところ、銀行、強盗、連想するのはそんなことばかりである。けれども、そんな違法なことをすれば、警察よりも先に吉影が飛んできて、ふたりを爆破するに決まっている。そんなことになったら、あの部屋に帰るどころか、本当に永久追放されてしまう。こうなったら、あの茅屋抜け出して、ふたりで帝国作り上げて誰にも邪魔されない豪遊の暮らししてやると自らを奮い立たせてみたけれど、それでも、吉影飛んできて、やっぱりふたりを爆破させるだろう。家から放り出したくせに、きっちりふたりを監督しているのだ。
    「おい、そんなことは絶対にやらんぞ。」
    「ほかの方法を考えよう。ファニーに集るのはどうだ?」
    「あいつが、今どこにいるか、知っているのか?」
    「知らん。」

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