扇子「これを俺に?」
煉獄は驚いた顔で炭治郎を見た。炭治郎が差し出したのは、朱に染められた品の良い扇子だった。任務で出かけた先で、腕の良い職人がいるという店で、買い求めたものだ。
鬼殺隊に入り、煉獄の継子となった彼は、順調に階級を上げていて、それに合わせて給金も少し増えていた。
ようやく、いくばくかの余裕ができたその使途として、思いついたのが自分の師範への贈り物だったというのだから、なんとも健気な話だ。
煉獄はそう思い、それを受け取った。淡い朱色でやや小ぶりのそれは、もしかしたら女性向けなのかもしれない。だが、そんなことは気にならなかった。なにより、開いた扇子から漂う香りが気に入った。きっと、骨の木の香りと、焚きしめた香が混ざり合っているのだろう。爽やかで、仄かに甘い。
1715