alternative 序章オルタナの海は今日も静かだ。

「司令、上がれるか？」

少し高い段差の上からワカバは手を伸ばした。

「……。」

手を伸ばした先にいる女性は黙ったままワカバの手を取る。

「ンンッ！」

ワカバ女性を引っ張りあげようとする、わかばの服をコジャケが引っ張る。

「コジャ、ありがと……でもやっぱ無理か…」

引っ張るが登ろうとする気配のない成人女性を腕だけで引き上げるのは無理があった。

「下から持ち上げられるかな？」

ワカバは段差を降りると、女性の踏み台になる様に足を持ち上げた。
ワカバはそれ程体力も力もない細身の少年だが、そんな彼でも持ち上がる程に彼女の体は軽かった。

「ンンンンンッ！司令、登って！！」
「……。」

足を持ち上げると女性は這うように段差の上へ登った。

「やった！」

ワカバも直ぐに段差の上へ登り、女性の腕を掴んで立たせる。

「今までで1番高いところまで来たな！」
「……。」

オルタナにはもっと高い場所は沢山あるが、彼女を連れて来た中では今までで1番高い。

「この下とここじゃほぼ見える景色一緒だけど、少しでも高い方がちょっと特別な感じがするよな〜。」
「……。」

彼女は相変わらず何も言わず表情も変わらない。
けれどその瞳は真っ直ぐ海を見ていた。

初めて会った時は焦点の定まらない目で何処を見ているかも分からなかった。
そして、ロケットに行く時に手伝ってくれた以来、自分から動く事もほとんど無かった。
今はこうして自分から少しづつ動けるようになって、オルタナの散歩できる範囲も少しづつ増えて来ている。

彼女の心境は分からないが、少しでも役に立てている気がしてワカバは嬉しかった。

「この前な、エイトのXパワー更新のかかった試合見に行ったんだ！ナギとチョロとコジャの4人で！」
「……。」
「それで皆で応援うちわ作って行ったんだけどさ、エイト負けちゃって、『恥ずかしくて試合集中できなかっただろー！』って怒られちゃってさw」
「……。」
「それでうちわ没収されちゃったんだ。でもチョロが言ってたんだけど、うちわ捨てずに保管してんだってwだからまた皆で作ろって言ってんだw」
「……。」

返事は無いがワカバはたわいもない話を続けた。

「じゃあそろそろ戻るか。」

そう言ってワカバは体を伸ばす。

「そう言えば、オルタナで寝るようになってから、たまに変な夢みるんだよな。」
「……。」
「誰か喋ってるんだけど、理解できそうでできない聞いた事ない言葉……。」
「……。」
「多分毎日同じ夢……前はほとんど覚えてなかったんだけど、なんか少しづつ鮮明になってきて…怖いんだ……。」
「……。」
「司令は変な夢見たりしねぇの？……オレだけかな……。」
「……。」

最近、やけに心がザワザワする…

ポフッ

頭の上に熱と重みを感じる。

「ありがと……司令。帰ろっか？」
「……。」

ワカバは頭の上の彼女の手を握ると、来た道を引き返した。


END

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alternative
オルタナティブ

意味:二者択一、選択、選択肢、代替案


3号であるワカバの大きな特徴として、全く知らない他人にも寄り添える、共鳴しやすい心の持ち主である。

オルタナには沢山の人間の思いが取り残されている。

ずっと家無しロッカールーム暮らしだった3号が、オルタナで寝泊まりするようになり、少しづつオルタナと共鳴していく。

そんなお話の予定。