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    おさとう

    @sora_tobu_sato

    ジャンル自由雑食アカウント20↑
    官能小説が好物😋✨

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    おさとう

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    ゆるゆる子供Δ半サギョが行く。

    #半サギョ
    #捏造IF

    Nothing seek, nothing find 3シンヨコ吸血鬼退治組合に豪邸に幽霊が住み着いているかもしれない、おかげで土地が売れない、と言う奇妙な案件が舞い込んできた。
    かもしれない、と言う理由で誰も姿を見たわけではないし、そもそも吸血鬼ならともかく幽霊と言うオカルトになると門外である。
    「これは半田くんじゃないと無理だな」
    マスターのカズサさんは、俺を選んだ。ダンピールの俺なら騒動の原因が吸血鬼なのかどうかだけはっきりさせることができる。俺の吸血鬼をかぎ分ける力は相手が高等吸血鬼なら町1つ分の範囲はカバーが出来、追跡能力としても優れている。俺は友達の依頼なら快く引き受けたが、簡単なことだろうからかぎ分けてくれと俺の能力を軽く見る人間は好きではなかった。
    けれどカズサさんだけは俺を大切にしてくれていて、行った先で吸血鬼が見つからなくても俺が無駄足にならないように、きちんと調査報告という形で仕事になるように取り計らってくれる。豪気な人なので呆れたように言う人もいるが、俺はカズサさんは出会ったときからずっとすべてを慕っている。彼はそこら辺の大人とは格の違う人格者だ。

    カズサさんのおかげで吸血鬼調査は俺一人で十分だった。もちろん大捕物になる事もあったが、『いるかいないか分からないものの存在を立証する』と言う案件はたいてい緊急性が低いのだ。存在を確認しても必ず退治になる訳ではない。仲裁や静観、治療など選択肢は色々なのだ。そのために何も連れだって歩く必要はなかった。
    しかし今回、俺はサギョウに声をかけてみることにした。
    屋内の調査となると無論ライフルは向かない。だが俺が彼を買ったのはそこではない。
    ライフルを撃つ前に彼は吸血鬼を遠くから見つけることができる。つまり彼は抜群に気配に敏感なのだ。
    さらに度胸がある。淡々として何者にも怯えない彼なら、きっと探索でも役に立ってくれる。
    何より俺はもう一人で味わうスリルは十分味わった。幽霊屋敷の探検など、面白くない訳がない。俺はサギョウとの冒険がしてみたいのだ。
    「空き家になった豪邸の調査ですか?もちろん、僕なんかでも良いなら」
    サギョウは特に言葉を返すこともなく、すぐに行きたいと言ってくれた。
    「室内でも戦える拳銃を買ったばかりなんです。僕もそろそろ中距離戦を覚えてみようと思って」

    退治人を待ちわびていた不動産屋と三人で豪邸に行くと、驚いたことにちゃんと吸血鬼の気配が漂っていた。しかも姿は見えないのに、あちこちにである。
    不動産屋が若い俺たちを心配そうに見ていたが、俺が「吸血鬼だ」と言って剣を抜き、サギョウがホルスターから拳銃を取り出したのを見て、彼は別の心配を始めた。
    「調度品に傷をつけないでください。資産価値が下がってしまうので」
    屋内での調査を頼んでおいて、こう言い出す客はけっこういる。俺はこの矛盾した要求の受け答えは苦手で無表情になだめるしか出来ないのだが、するとサギョウがすいと前に出て不動産屋を見上げて微笑んだ。
    「吸血鬼の立ち退きは説得の可能性も大いにあります。これは形式的な装備で、弾も実弾じゃなく麻酔用ですから。こんなに見事な物件、いつまでたってもただの負債になってちゃもったいないですよ」
    「しかし…」
    渋る不動産屋にサギョウは口調をからりと乾いたものに変えた。
    「かなりの年代の豪邸ですけど、元のご主人様は生前でも良いので吸血鬼保険にはいってましたか?」
    「…入ってます」
    「契約書のコピーありますか?見せて下さい」
    「はい…」
    しぶしぶ差し出した不動産屋の書類を、サギョウは俺に回した。
    俺はざっと目を通す。邸宅はある規模を越えていわゆる豪邸になると、吸血鬼が発生しやすいので建築時と相続時に保険加入が必須なのだが、やはり今回もきちんと家屋売却時の退治保証付きの保険に加入してあった。これなら多少戦闘で損害が出ても俺たちに支払義務は発生しない。俺はサギョウに頷いた。せこい不動産屋だ。
    「ご協力ありがとうございます。今回、建物の保険に退治の保証がセットでついてました。トラブルが発生しても保証金が支払われます。お任せ下さい。吸血鬼はちゃんと片付くように僕たちで成果をあげてきますよ」
    保険を隠そうとした不動産屋は責められずにホッとした顔をした。
    「若いからかな。真面目で仕事熱心な退治人さんじゃないか」
    頑張ってくれ、と言われる。どうやら信頼されたらしい。
    俺が引き受けたときの予感が当たった。
    これまでの調査はこんな高価なものではなかった。巨額が絡むと人は面倒になる。
    やはりサギョウとコンビで来て良かったのだ。
    サギョウは良く分かっていた。
    彼らの家屋の時価相場の調査と俺たちの吸血鬼探しの調査は同じ名前でも種類が違う。俺たちの目標は吸血鬼の心情も含めて円満に解決できるかどうかだ。だが彼らは物件を一円でも高く売れるように見せられるかどうかが結論だ。リアリストなサギョウはそれをよく分かっていた。

    屋敷の調査は意外にも当たりだった。
    俺たちが邸宅に足を踏み入れると気配が移動した。
    一度は俺たちに向かって集まってきたと思ったが、襲いかかることはなく、ある場所に向かったのである。
    俺たちはそれを追いかけるだけで良かった。
    すると大階段の踊り場に設けられた等身大の七人家族の肖像画が現れたのだ。
    サギョウと俺はうなずくと、武器を取り出す。
    するといっせいに絵画から家族が飛び出してきて、半透明の薄っぺらな姿で切りかかってきたのだ。
    つまり屋敷の主人が大切にしたあまり絵画がツクモ化し、絵の中の人物が薄っぺらい半透明の姿で夜な夜な吸血に出歩いていたのだ。
    これは幽霊騒動と間違えられても仕方ない。けれどすぐに騒動は終わった。
    俺の短剣とサギョウの拳銃が幽霊もどきを次々に壁に縫い止めると全員大人しくなり、そしてしくしく泣きだして、今は亡き主人とその主人の愛した邸宅を慕い続けている身の上を教えてくれた。
    不動産屋を呼んだ。
    不動産屋はも抜けのからの肖像画と、七人揃って透けている家族を見て「本当に幽霊だ!」と叫んで腰をぬかした。
    俺は丁寧に説明した。
    「違いますよ、これはつくも吸血鬼と呼ばれる、物が吸血鬼化する現象なんです。屋敷の持ち主だった家族の思い入れが深くて吸血鬼化したんです。悪意はないと言っておりますし、俺から見ても敵性は低いように思います。まず話し合われてはいかがですか?」
    「話し合いなんて!こんなお化けもどきがいてもらっちゃ困ります!退治して下さいよ!」
    「でも彼らはずっと無人の屋敷を綺麗に保ってくれていたそうなんです。空地になってから家が荒れ放題なのも、見学者が汚すのもちゃんと掃除し、迷惑YouTuberや泥棒が入ってくるのを幽霊のふりをして撃退をしてくれていたんだそうです」
    「ははあ、大切な家を守っていた、と言うわけですか。道理で綺麗に片付いている。うーむ…そうは言われましても新しいオーナーが来てしまえば、ハウスキーピング係も無用ですからねぇ」
    かたくなに不動産屋は出ていって欲しいと言う。行き場を失ったあわれな絵は泣き出した。つくも吸血鬼は善の吸血鬼だ。ゆかりのある人に深くなつくし、生まれた場所に良い効果を生んでくれる事が多い。正直倫理的に退治したくないのだ。俺は絵にもう少し肩入れする。
    「彼らは何も悪いことはしてない上に屋敷を誰よりも愛しているんですよ。吸血についてもトマトジュースで我慢すると言っているし、年代物の屋敷の大階段にぴったりの絵じゃないですか。もしこの絵を外しちゃったらここに何を飾るんですか?仮に売るとしても確かに立派な絵画ですが、無理やり邸宅と離ればなれにされた吸血鬼がくっついている絵が売れると思いますか?」
    「ううううううん…」
    不動産屋は唸り始めた。絵の行く末が気になり出したらしい。
    「それもそうなんですよね…つくも吸血鬼を処分するとなると…」
    「そうです。ツクモ吸血鬼は人間が使って生まれる存在なので、大切に扱えば忠実で良い効果をもたらしてくれるんです。だから代替わりでも験担ぎでそのまま使い続けるのが慣例となっていて、それを処分するとなると大変ですよ。だから、俺は一度、購入希望者とこの絵の皆さんと仲介業者さんで正直に面談することをおすすめします。ご希望なら席には俺も立ち会います」
    不動産屋はパッと顔を輝かせた。
    「本当ですか!なんて誠実な方たちなんだ。実は今、この屋敷の購入希望者さんがいるんです。話し合いに神父服の退治人さん達がいてくれたらたいへん助かります!商談がまとまったら、今回の代金は倍お支払いたします!」
    「代金についてはマスターにお伝えください。商談の日が決まれば喜んで双方に悪くないようにアドバイスさせて頂きます」
    「いやぁ!お若いのになんて頼もしい方たちなんだ!この八敷の謎も悪い噂も払拭できましたし、本当に助かりました!」
    と言うことで、依頼は明るい見通しがついた。
    俺もやみくもに席に顔を出すと言ったのではない。
    相手はもともと幽霊騒ぎがあった家に興味を示す人だ。吸血鬼の絵画があるとなればむしろ大喜びするだろうなと俺は目算していた。
    帰り道に話せばサギョウも同意見である。俺たちは時々、吸血鬼よりも生身の人間の方が欲深くて変わり者だと言う話をしながらギルドの扉を開いたのである。

    報告を終えた俺はサギョウがギルドの外壁にもたれて、じっと自分のスマホを眺めているのを見つけた。
    「どうしたんだ?」
    「あ、センパイ。いえ、そのあの…ぼく、ちょっと困ってまして……待ってたんです。センパイのお力、借りれませんか?」
    さっきまでの豪胆で冷淡な態度が嘘みたいに、サギョウの頬ががぽっと赤くなり、もじもじして俺を見上げ、ふにゃふにゃと言う。
    「実はあの…、僕、オーブンが欲しくなりまして…、でも検索したら日本語でたくさん出てきて目が回っちゃって…。お願いです、センパイ。オーブンを買いに、電気屋さんについてきてくれませんか?……ていうか、そもそも、どのお店に行ったらいいでしょうか?」
    俺は料理が好きでオーブンを使う事もよくある。サギョウの手助けが十分出来そうである。
    「しかし何故急にオーブンなんだ?」
    「僕んち、いつも大きなオーブンで全部料理してたんですよ。だから、ええと、その、そうだ。自炊できるようになれば、僕も食生活がマシになるかもなぁって」
    「なるほどな。よし、そういう事なら任せろ!」
    俺は笑顔になった。サギョウが暖かな食事のある生活に興味を持ったのが嬉しかった。
    すぐにサギョウのリクエストを聞いていくつかのオーブンに目星をつけて、明日の午後、電気屋に行く約束をした。

    次の日サギョウは午後の光の中、眠そうに私服姿でやってきた。彼は服を買うのが面倒でGAPでワンシーズン揃えてしまった。彼の体格にしては横幅がだぼだぼしたラインが可愛い。俺はお母さんと選んだ黒シャツにジーンズだ。
    行き先は駅のビッグガメラである。
    サギョウは大音量の電気屋が苦手なようで、気後れしたように俺の後をついてくる。
    「なんで家電だけでこんな大きなビルが建つんですかね。猟銃屋なんか、この店の洗濯機コーナー位のサイズに手榴弾からとらばさみまで、ありとあらゆる武器が揃ってるのに」
    ぶちぶちと物騒な比較をして尻込みしているサギョウを、まぁそう言うなと俺は笑ってオーブンの所まで連れていった。
    するとまた不安そうに俺を見上げる。トースターとレンジとオーブンの三種類が混合でずらりと並んでいたからだ。俺は彼が希望していたオーブンを指差す。
    「ありがとうございます」
    サギョウは目的のものまで辿り着いたのが嬉しかったのか、やっと笑顔を見せた。そしてコーナーのオーブンの蓋を開け閉めしては、俺に飾られた機能説明を読ませて、15分かけてようやくこれにする、と決めたのである。俺は驚いた。
    「そんな大きなの、キッチンに置けるのか?」
    とても大きくて本格的な、車で例えるならジープのようなオーブンだ。
    「はい。きっとこれで全部作りたいものが作れます。色は黒でお願いします」
    店員は幼い彼の外見に心配そうにしていたが、俺がハンターの証明書を見せると保護者と思われたらしく、ようやく話がスムーズに進んだ。サギョウは配送とオーブンの設置もお願いして、現金で支払った。彼の年齢ではまだカードが持てないのだ。ようやく欲しいものを買えたサギョウはオーブンのチラシを抱き締めてへにゃへにゃの顔でセンパイ、ありがとう、と言った。そんな可愛い顔は初めて見たので目が点になった。
    「年相応の笑顔も出来るんじゃないか」
    無邪気な表情に思わずからかうと、彼はまったく心当たりがないと言わんばかりにポカンとして頬に手を当てる。
    俺は彼のぽやぽやの芝生みたいな緑の頭に手を伸ばし、くしゃくしゃに撫でた。
    「お前、よほど欲しかったんだな。とても嬉しそうだ。手に入って良かったな」
    頭をなでられたサギョウは真っ黒い大きな瞳で、ついついつられて微笑んだ俺の顔をじっと見上げた。そして目を細めてこくりと頷く。
    「へへ。そうです。ほんとに欲しかったんだ」

    それから数日後。
    俺はサギョウから、手の平に余るサイズのラッピングされた袋を渡されたのだ。
    袋を開くと、人形の形で型抜きされたクッキーが出てきた。
    「かわいいな。俺にくれるのか?」
    「オーブンが届いたから作ったんです。母がよく焼いてくれて僕がゆいいつ自信を持って作れるお菓子なんです。簡単なんですよ。あの、料理上手なセンパイのお口に合わないかもしれないけど、良かったら食べてくれませんか?」
    俺は喜んだ。
    「サギョウがあのオーブンで焼いたクッキーか。嬉しいぞ!ありがたくいただく」
    せっかくだからその場で口に放り込む。サクサクした触感に、表面のざらめの甘味、そしてジンジャーの香ばしい香りで体の温まる味わいだ。素朴だがとてもおいしい。
    「食べきるのが勿体ない。持って帰ってお茶を淹れて家族皆で食べるぞ。ありがとう」
    ウキウキしながら言うと、サギョウはなぜか自分の帽子の両端を引っ張って顔を隠す。よく見ると耳まで赤くなっているようだ。
    「…こんなのじゃ、いつもお世話になっているお礼にもなりませんけど…。僕にも何かできて、よかった。いつか僕、センパイに七面鳥を焼いて食べさせてあげますからね」
    …サギョウはいつかこぼしていた『吸血鬼退治以外なにも知らない自分』を変えたくて、オーブンを買ったのだろうか?俺にはわからない。
    けれど、吸血鬼退治以外てんで無頓着なサギョウがあの何もない部屋で、懸命にクッキーの生地を練っているところを想像すると愛しい気持ちすら湧いてくる。
    「…とても気持ちのこもったクッキーだった。七面鳥も楽しみにしている」
    サギョウはぱあっと顔を輝かせて頷いた。
    「はい。センパイ、ぜひ食べに来てください!僕の故郷のごはんもおいしいこと、知ってほしいんです。…いつも僕の暮らしを助けてくれるセンパイだけには…」
    「そうか。こんなに心の籠った贈り物が返ってくるなんて手伝ってよかったぞ」
    俺は食べかけのクッキーの最後のひとかけを口に放り込む。口の中に夜空の星屑が広がるみたいで、サギョウの肩を抱き寄せる。
    「今日も一緒に帰ろう」
    「はい」
    空が白んでくる。
    幸せなひと時だった。




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