朝は平等に訪れる。たとえここが陽の光などまるで届かない水の下のメロピデ要塞であろうと。リオセスリは横たわっていたソファから身を起こし、壁掛け時計を眺めてため息をつく。
前日のとんだ大失態から結局一睡も出来ないまま、いつもならば新聞を取りに行く時間となってしまった。湯を沸かす気にすらなれなかったが、どうにか重い腰をあげる。兎も角今日のこの状態では余計な仕事を増やすだけになる。さっさと休暇届を出して彼女に昨日の非礼を詫び、そうして恐らく遠からずやってくるであろう『審判』を待つことにしよう。
そう彼が回らぬ頭で考えていると、階下で扉の開く音が聞こえた。ノックの音も何もせず。
「おはよう、公爵」
扉を開けた者が誰かを彼が悟るのと、ほとんど同時に聞こえた彼女のいつも通りの甘い声は、ぼやけていた彼の意識を完全に叩き起した。つい十数秒前に考えていたことも飛んでいき、ああ……と腑抜けた声を返すことしか出来ない。
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