ワンドロ1作目「涙 笑顔」ワンドロ1作目「涙 笑顔」
その時、僕はまだ小さな子どもであった。
周囲をメラメラと炎が燃え盛る。焦げた木材の匂いと天井が崩落する轟音が僕を襲い、震え上がるような恐怖が腹の底から湧いてくる。
子どもの頃、僕はまだ炎の選別というものを知らなかった。当然、その記憶の中で僕が感じたのは、死への恐怖と両親との別れへの悲しみだった。
炎に包まれていく幼い頃の思い出が詰まった家の中で、父と母の笑顔が浮かぶ。僕を暗闇の中に突き飛ばし、遠ざかっていく姿は、オレンジ色に輝いていて幻のようだった。
嫌だ!嫌だ!行かないで!
必死に手を伸ばす僕の手はあまりにも小さく、か弱く、何も守れない。そんな虚しさと、愛するものを失うことへの恐怖が、僕を絡め取って深淵の中へ引き摺り込んだ。
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