目の前の君が何よりで『続いては超モフかわ!ワンちゃんネコちゃんときめき映像20連発!』
とある日の夜。
テレビから流れてくるそのナレーションに、ソファで寛いでいた司が目を向ける。
テレビの映像には、犬や猫が映し出されていた。
「おお……久しぶりにこういったものを見たが、中々愛らしさがあって癒されるな」
「ふふ、そうだねえ。今どきはアニマルセラピーというものもあるしね。でも僕はそれを見て癒されている司くんを見る方が癒されるかな」
司のすぐ隣に座る類はテレビではなく司を見て応える。
「む…、つまりアニマルセラピーならぬ天馬司セラピーというわけか?フッフッフ…犬や猫と同等のセラピー効果のあるオレ…さすがはオレ…まあ類専用なんだろうが」
「そうだね、僕にとって司くん以上の癒しは無いかもしれないねえ」
「そ、そうか…?嬉しいが…もっとこう…オレばかりではなくてな…、お!ほら見ろ類、あのネコ、なんとも愛らしくはないか?」
司しか眼中に無さそうな類だったが、司にテレビを見るよう促されそちらをチラと見やる。テレビでは、むちむちとした体型のネコが飼い主と戯れる姿が映し出されていた。
「...確かに、こうしてテレビで流すくらいだから司くんの言うとおり愛らしいのかもしれないね。だけれど...やはり僕からするとあの猫を「可愛い」と言って目を輝かしている司くんの方が可愛いし...それに、司くんがあんなふうに僕と戯れてくれたらなんて考えてしまうよ。ふふ...僕にすりよって甘えた声を出す司くん...きっと何よりも可愛いに違いないねえ」
類は至極当然かのように、はたまた良い演出が思い浮かんだ時のように饒舌に...そして猫のような司をその先に見据えながら答える。
「な...!だ、だからお前というやつはだな...!オレのことを考えてくれるのは嬉しいが、少しは猫や犬そのものを見ようとは思わんのか...!」
「目の前に司くんがいて、司くん以外を見ろというのかい?司くんだけを見ていては駄目なのかい…?」
小首を傾げてきゅるんとあざとく訴える類。類にとっての癒やしは、他の何ものでも誰でもない司。その司を見ずに他に何を見ようものなのか...類が言いたいのはそういうことであった。
「う……ぐっ……だ…だめではないが………」
類にあざとく見つめられ、顔を赤くしてたじろぐ司。散々可愛いとナレーションされている犬や猫の映像は、司から見ればそれ以上の可愛さを誇るあざとい類によって完全に遮断された。
じわりじわりと、感情が、思考が。類に支配されていく。目の前の類のことしか、考えられなくなっていく。
こんなにも、可愛く、あざとく…「自分だけを見たい」と言われ…絆されないわけがないと、司は悟る。惚れた弱みとも言うのだろうとも。
「ああもう…!わかったッ…!類!こっちに来い!」
観念した司は、ばっと腕を広げ、類を受け入れる姿勢を取る。
「わぁ…!司くんっ♡」
「どわっ…!」
類は顔を綻ばせると、すぐさま司の胸元にダイブし、その勢いで司を押し倒す。
司の視界には、最早類しか居ない。それは類も同じで…お互いに、お互いだけが視界にいる。
「…どうだ類、これでオレのことしか見れなくなっただろう」
「ふふ…そうだね。嬉しいよ、司くんがその気になってくれて」
「あれだけ言われて、応えないわけにはいかんだろう…、そ…それに、オレも…類のことだけを見たくなってしまったからな…あの表情は反則だぞ…」
「おや…僕の渾身のおねだりはテレビの犬猫に勝ったようだねえ」
「惚れた弱みというやつだ。あの瞬間…一番可愛かったのはお前だ。だから…お前がオレだけを見たいと言ったのも、よく分かるぞ」
「ふふ…じゃあ、司くん。お互いにお互いのことだけを見て…お互いのことしか考えられなくなろうか…♡」
そう言いながら、類は司の項に顔を埋める。吐息を感じられるほど間近に迫られ、司の身体はびくりと反応する。
「んっ……!ん……うむ…、もちろんそのつもりだぞ……るい…いっぱいしてくれ…♡」
「司くん…♡仰せのままに…」
お互いの存在が何よりの癒し。
テレビの向こうの犬や猫はもう何処へやら、今はただ、目の前の恋人が何より愛おしくて堪らなく…迸る愛情をひたすら感じていたいと思うのだった。