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    1852m海里

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    1852m海里

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    花になった貴方【第二話】雨が続き、すっかり梅雨らしくなってきたこの頃。今日は外で梅雨探しをしようと短刀の子たちに誘われていた。具体的には外にお散歩に行き、その際に見つけた梅雨らしいものを見つけに行こうというものらしい。傘を持ち、ある子は相合傘をして、ある子ははしゃいで水たまりにわざと飛び込んで、私自身、幼い頃にやんちゃしていた頃を思い出させる。紫陽花、カタツムリ、縁側に吊るされたてるてる坊主にカエルの歌。たくさんの梅雨を見つけた私たちは帰ってから、それらを思い出だからと皆で一冊の絵日記を作ることにした。遊び疲れた皆は雨音を聴きながら昼寝をしたり、描いた絵日記を読み返したり、各々の時間を過ごす。私は業務に戻るため、自室に帰る。雨にも負けない菊の香り。真っ赤に染まったその花は甘く、私の全てを飲み込んでしまいそうなほどに強い香りを放っている。しかしそれは決して嫌なものではなく、酔いしれてしまいそうな感覚で。時には酩酊、昏睡に近いものを感じる。とにかく例えようのないほどに心地の良い感覚なのだ。こんなにも素敵なものを見つけて私にプレゼントしてくれるだなんて本当に素敵な刀たちだなあ。ありがとう、みんな。審「あれ…?」なんとなく花に違和感を覚え、じっと見つめるが特に変わった様子がなかったため、気のせいだということにした。しかし、本当にいい香りだなあ。

    その日の晩、私は夢を見た。そこは太陽のように暖かで、優しい光に包まれた空間だった。辺りを見渡すとちらちらと小さく揺れる双葉が私を中心に囲むように芽生えていた。そこに命を宿したばかりのまだ幼い双葉。そんな姿でありながら、それらからは微かに甘い香りがした。なんて強い生命だと魅了されているうちに眠気が私を襲う。暖かな光とそれらの甘い香りに包まれながら私は目を閉じた。目を開けるとそこは自室で、降っていた雨は止み、鳥のさえずりが聞こえてくる外からは、暖かな光が差し込んでいた。なるほど、だから夢の中でも光に包まれていたのか。夢というのは本当に不思議なものだ。研究内容は違えど、南海先生なら頼めば一緒に夢の研究をしてくれるかな。松「主、おはよう。朝だよ、起きているかい?」審「おはよう松井。起きてるよ。」松「良かった。歌仙がもうすぐ朝餉の時間だから、主を起こしてきてくれと頼まれてね。」審「そうだったんだ。ありがとう、すぐ行くね。」今日の朝餉のおかずは何かな。お味噌汁には何が入ってるかな。今日の内番どうしようかな。久しぶりに鍛刀もしてみようかな。あと…。審「わ!ごめん…薬研?」薬「ああ、大将おはよう。最近よくぶつかるな…あはは、お互い気をつけなきゃな。」審「私も前方不注意だったから…ごめんね。あ、篭手切の具合はどう?」薬「篭手切ならもう良くなったんだが、今度は秋田が熱出しちまってな。」審「秋田くんが!?あ…昨日みんなで雨の中散歩した時に体冷やしちゃったのかな…。」薬「そんなに気を落とすな、大将のせいじゃねぇよ。むしろあいつは今までが元気すぎたくらいだから、今日くらいはゆっくり休ませてやろう。」審「うん、ありがとう薬研。あ、もうすぐ朝餉の時間だから、あとで広間においでね。」薬「ああ、分かった。」

    朝ご飯を食べている時、自分では気が付かなかったのだが、松井が言うには今朝の私はよく水を飲んでいたという。確かに言われてみれば、いつもよりも水をよくおかわりしていた気がする。しかし季節も梅雨になり、ジメジメとした暑さがやってきた今、普段より水分を欲するのも無理もないだろうと思った。しかし本当に松井の言うように、今日は一日を通して考えても普段の倍は水を飲んだ。あまりにも水を取りに行く回数が多かったので、鯰尾が二リットルのペットボトルを箱ごと持ってくるほどだ。汗まで流して大変そうだったので結局一本あげた。

    審「今回はこの部隊での遠征です。みんな、気をつけてね。」遠征部隊の子たちを見送り、私は自室に戻った。松井たちから赤い菊をもらって4日が過ぎた頃、私はあの晩以降、毎日同じような夢を見るようになった。同じように暖かで優しい光に包まれた空間に立っており、辺りにはたくさんの双葉。以前と違うのはその双葉が日に日に成長しているということ。それと同時に甘い香りが強くなっていること。違和感を覚えながらも、夢の中でぼんやりとして、心地よい気分になっている私はまた眠気に襲われて目を閉じ、朝を迎えることしかできなかった。そして4日が過ぎて私は以前に感じた違和感の正体にやっと気付いた。松井たちからもらった花の本数が明らかに減っているのだ。枯れているからとか、そういうわけではなく、単純に減っている。無くなっている。私がいない間か、寝ている時に花の手入れをしてくれている刀がいるのかと思って聞き込みをしたが、どうやらそういうわけでもないらしい。そして変化はもう一つ、私にも起こっていた。最近いろんな子たちからよく、主から甘い香りがすると。しかし、あれだけの存在感を放つ香りに一日中包まれているのだ。きっと服に染み付いてしまったのだろう。審「ゲホッ…。」ああ、それと、最近体調が優れない日が続いている。身体の中に何か悪いものがあるように感じて、それを吐き出そうと私の身体が反応してよく咳き込むようになった。原因が分からないので下手に薬を服用するわけにもいかず、これには薬研も流石に頭を悩ませてしまった。きっと疲れが溜まったのだろうと思い、今日は早めに休むことにした。しかし、それでも私の身体の不調が治ることはなく、むしろ悪化していった。それと同時におさまらないのは次々と身体の不調を訴える刀剣男士たち。最近になってやっと分かった。不調を訴える刀たちは皆、赤い菊をプレゼントしてくれた第一部隊の子たちだった。原因はきっとあの赤い菊だろう。早くあれをどうにかしなきゃ。布団から手を伸ばそうとしても私の身体はいうことを聞かず、疲労してしまった私は眠りこけてしまった。

    赤い菊が二本になったその日の晩。虎「あ、主様…まだ起きてますか…?」審「あ、うん。ゲホッ…。起きてるよ。どうしたの?」虎「主様が良い夢を見られるように、今日は僕が読み聞かせしたいなって…。あ、でも主様しんどいですよね…!すみません…。」審「ううん、大丈夫だよ。せっかくだから読んでくれる?」虎「…!はい!じゃ、じゃあ読みますね。」そう言うと五虎退は本を開いて、穏やかな優しい声で読み聞かせをしてくれた。彼の読み聞かせにうとうとしてきた私はそのまま眠りについた。眠ったのに気付いた五虎退は微笑んで、誰も見ていないのを確認してから、少し頬を赤らめて私のほっぺにキスをした。虎「は、早く良くなりますように…。」その晩、また夢をみた。いつもと同じ空間、いつもと同じ香り、いつもと同じ双葉。今夜は花の蕾が顔を出していた。意識がぼんやりとしている私は、心地よさそうに揺れる赤い菊に思わず見惚れてしまう。もうじき咲きそうなその花を私はそっと抱き寄せた。審「松井…。」

    歌「おや、松井。おはよう。もうすぐ朝餉の時間だから、主に持って行ってあげてくれるかい?」松「ああ。分かった。」主が少し前に身体を壊してしまってから、最近は体を起こすのも疲労してしまうようになったらしく、朝餉の時間になると僕が主の部屋まで持っていくようになった。今日は昨日より元気になっていると良いな。松「主、おはよう。起きているか……主?」返事がない、まだ寝ているのだろうか。…?なんだこの香りは。松「…うっ!」思わずひざまずいてしまった。朝餉は…落としていない。良かった…。いや、そうではなくて。全身にまとわりつくようなこの甘い香り…。この香りには覚えがある。最近主から香る匂いだ。松「主!!!」部屋に入った僕は絶句した。つい昨日までは何もなかった主の周りを、囲むように菊の花が咲いている。血のように真っ赤な菊が。甘い香りの正体はこれだったのか。いや、待て。この花は、僕が見つけて主にプレゼントした菊の花じゃないか。もしかして、この花が主の身体を蝕んでいた…?松「そんな、主…僕の…僕のせいだ……。」どうすればいい。僕はどうしたら主を起こせる?花…そうだ。この花が主を蝕んでいるというのなら、この花さえ切ってしまえば。僕はすぐに刀を取りに戻り、主の前でその刃を抜いた。松「この花を切れば、主は目を覚ます。きっと、きっと…。主、もう少し待っててくれ。僕が…僕が…。」花瓶に残った一本の菊が咲く部屋で、彼はその刃を振り下ろした。

    審「あ…またここだ…。」とうとうこの景色にも見慣れてしまった。暖かい、心地良い、良い匂い。どうしてこの場所に来るとこんなにも心酔してしまうのだろう。審「あ…。」今朝、とうとう双葉に花が咲いた。その瞬間、ここに咲き乱れている花たちに完全に心を奪われてしまった。なんだろう。今すぐにでもこの腕に抱き寄せたいほどに愛おしい。まるで恋にも似たようなこの感情。鼓動が高まるのが分かる。なんでも良いからこの気持ちを声に出して発散させたい。夢の中だから良いよね、何言ったって良いよね。私は深く息を吸って人生で一番大きな声をあげた。

    清「…?何の騒ぎ…って松井!?何やってんだお前っ…!!!主の部屋だぞ!!!主にバレた…ら…。」松「加州…主が起きないんだ…。」僕は、目の前の光景に絶句した加州に向かって、そう言った。僕の目からは赤色に染まった涙がこぼれ落ちる。加州が来る少し前、僕は主の周りを囲っている菊の花めがけて刀を振り下ろし、切った。切り口からは血のように真っ赤な液体が溢れてきた。いつもの僕なら今頃、たぎってきているのだろう。しかし僕はそんなことも考えられず、茎から花の花弁に至るまで全てをただ切り尽くした。切る度に血のように真っ赤な飛沫をあげるその光景は側からみれば残虐行為の何でもないだろう。そりゃあ加州もあんな顔をしてしまうな。松「ああ…僕はどうやら取り返しのつかないことをしてしまったようなんだ。」すると何かを思いつき、加州が口を開いた。清「…王子様からのキス。」松「え?」清「毒林檎を食べたお姫様は、王子様からのキスで目を覚ました。五虎退にこの間読んであげた絵本にそんなこと書いてあったなあって。…それだけ。」加州はそれだけ言うと頭を冷やしてくると、この場を離れた。王子様からの、キス。そんなお伽話、現実に通用するわけないだろう。………。…それでも。主、もし貴方が、僕にとってお姫様のように愛しい貴方が、僕のことを王子様と想ってくれているならば、目を覚ましてくれるのだろうか。松「主…もう一度、目を開けておくれ。」そうして僕は主の唇にキスをした。

    部屋の花瓶に生けられた一本の赤い菊は、そこにはまだあった。
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