チェイス・ザ・ムービー「チェイス」
「なに?」
星型のクッションに身を預けて、目を閉じていたチェイスに呼びかける。
遠目からは、起きているのか寝ているのか分からなかったけど、僕が近寄ったことを、意識していなくてもチェイスなら感じ取っただろう。ふわりと動いたしっぽや、下ろしていたけどぴくりと動いた立ち耳がなによりの証拠だ。
眠っているなら後にしようと思ったけど⋯すぐに返事をしてくれたし、起きてたのかな。
今年のアドベンチャーベイ映画祭が終わった昨日、撮影やそこで起こったトラブルなどでへとへとで、パウステーションに帰るとクッションに突っ伏すように、みんな一緒に寝てしまった。
今日はそれの片付けがあって、午前中に終わったあとはパウステーションに帰る組と、そのまま出かけた組に分かれた。
今室内にいるのは僕とチェイス、それから上にラブルとスカイだ。あとのみんなはまだ外にいると思う。
「君が主役の映画があるんだけどね、一緒に観ない?」
「俺が主役!? どういうことっ?」
そんなの撮った覚えも撮られた覚えもないぜ、って混乱してるチェイスがおかしい。気になる気になる、なぁケント教えてよ、と足元をぐるぐる回り出した彼を宥めて、ひとまず、内容を説明することにした。
「これはね⋯まぁほんとは全員分あるんだけど、まず最初は君かなって」
「うん?」
「あのね、これは、僕だけが知ってる君の映画。チェイス・ザ・ムービーなんだ」
「⋯⋯へぇ」
「あっ、興味なくなったでしょ」
「だって意味が分からないぜ」
「気に入ってもらえると思うよ?」
「俺が俺の映画観ても⋯恥ずかしくなるだけだろ?」
「そんなことない。僕の目に、君がどう映ってるか知りたくない?」
「えぇ? し、知りたいような知りたくないような⋯悪く思われてたら、どうしようって」
「あはは! そんなこと思うわけない」
君を悪く思うなんてそんなこと、今までも、これからだってないのにな。まぁなんにせよ、少しでも興味を持ってくれたからよしとするか。
「僕らが出会って⋯そうだね、だいたい昨日までの一部抜粋ってとこだよ。少しざっくりしてるけど」
「昨日!?撮影期間が長すぎるぜ!いつ撮ってたの!?」
「ふふ、秘密! あ、ほら始まるよ」
サプライズが過ぎるぜケントは⋯とぽつり呟く。僕のひとつひとつの発言に、いちいち翻弄されてしまう君が愛おしくてたまらない。
まったく、どうしてこんなに素直な反応を見せてくれるんだろう。自分の気持ちにいつも120%だ。
10,9,⋯とカウントダウンが始まり、落ちつかなかったチェイスもモニターに目を移した。
短い映画だけど、きっと気に入ってくれる。
僕は確信していた。
***