溺れぬ人間 前編意外だと言ったのは数刻前だったか。
空になったいくつものビン。(空にしたのはミズリ)
外が明るくなってきたことに気づいて驚くミズリ。
「もう、夜が明けるんですね」
そろそろ片付けた方が良さそうですね、と笑う。
片付けを始める足元にも手元にも狂いはなく、呂律に異常もなく、息が上がるどころか、顔にわずかな赤もささない。
完全な素面。
普通なら病院に担ぎこまれてもおかしくない量を呑んでおきながら。
これはもう、異様(化物)だ。
しかし、どこからどうみても唯の人間。
何かが憑いている様子もない。
もしやー
「君、何か、人の世の理から外れたものを口にしたことはあるかい?」
ミズリ、少し驚いた顔をするが、すぐに納得したような、感心したような様子で言う。
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