八千穂が主人公(葉佩九龍)に手作りのお守りを(間接的に)渡す話「これをどうしろっていうんだよ」
「くーちゃんに渡してほしいんだ!会いに行くんでしょ?」
「お前なァ……」
八千穂が片手に細い紐をぶら下げてほほ笑む。八千穂が編んだものだという。
俺たちは高校卒業後も時々メールのやり取りを続けていた。
今月末、俺はロゼッタ協会の本部研修に行くことになっていた。
大学が近い八千穂とはこうして飯をともにすることもあり、色々と筒抜けであった。
忙しく国内外を飛び回っている九龍も、今度の研修に合わせてエジプトに来られるらしい。
「九龍に会いに行く」との言は本来の目的ではないのだから訂正すべきかもしれないが、会いたい本音に間違いはないので歯切れが悪くなる。
久しぶりなのだ。直に顔を見るのは3か月振りくらいか。
「お土産とお土産話、楽しみにしてるねッ!」
縁取りに細工のある封筒に丁寧にその紐をしまい、テーブルの上に置く。
「危険なお仕事だから……」
少し声のトーンを落とした八千穂は、わずかな沈黙の後、パッと顔を上げ、皆守くんにも作ってあるよ!と、バッグのポケットからもう一本の紐を取り出した。
ついでのように出されたそれは、先ほどのものと色形が似通っていた。
「くーちゃんと皆守くん、本当に仲良しだもんね!」
鼻の下をこする仕草は、あの頃と変わらず。憎めないのである。