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    とらのめ

    版権二次創作/ハルスグ相手左右完全固定
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    とらのめ

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    成長後設定ハルスグSS

    前作『treasures』からまたまた話が繋がっています。
    ハルト君がひたすらノロケる話(聞き役:オモダカさん)。

    だって愛しくってしょうがない スグリと結婚式を挙げたあと、もう家族なんだしいいよねと思って、ゼイユがよく呼んでるみたいにスグリのことを『スグ』って呼んでみた。
     ずっと前からやりたかったことではあったんだけど、そのときは不意打ちで言ったから、効果は抜群だったみたいだ。びっくりして目を白黒させてたスグリは照れて頬っぺたを赤くしながら、「その呼びかた、ハルトが言うとなんかこそばゆいな」って、にへへって笑ってくれた。僕はスグリのそういう顔がすごく好きで、それから隙を見つけては、スグって呼ぶようにしてる。
     スグリが幸せそうな顔をしてくれると、僕もうれしい。スグリはちょっと恥ずかしがり屋なところもあるけど、子供のころから自分の感情をとっても豊かに表現してくれるひとで、ころころと変わるその表情のなかでも、やっぱり、あんな風に喜んだときの、うれしそうにふにゃっと笑う顔が僕は一番好き。毎日ああいう顔をしていてほしいから、スグリが喜ぶことを、これからもたくさんしてあげたい。
     僕たちが結婚することをお互いの家族に報告したとき、ゼイユからも、「あたしの弟をゲットするからには世界で二番目に幸せにしなさい!」って、ものすごく念を押された。ちなみに世界で一番幸せになるのはゼイユ自身だから〝二番目〟なんだそうだ。「あたしがこう言ってたこと、スグにはバラさないでよ。バラしたらハリーセン丸呑みだかんね!」とも念押しされてるから、隠し事をするのは心苦しいけど、スグリには言ってない。ゼイユもスグリの幸せを願ってるって話なんだから、言ってもいいと思うんだけどなぁ。スグリもなんだかんだ言ってゼイユのこと大好きだし、けっこう似たもの姉弟だよね。
     新婚ほやほやの頃から一ヶ月くらい経って、スグリはだんだん、僕がスグって呼ぶたびに、なんだかもじもじしながらこっちを見るようになって。ある夜いきなり、『ハル』って僕のことを呼んでくれた。そのとき僕が感動して大喜びしたからか、それからスグリも、たまに僕のことをハルって呼んでくれるようになった。いつもちょっと照れながら呼んでくれるスグリがかわいいし(かわいいって言うと複雑そうな顔をするからあんまり声に出して言ってないけど)、なんだか、前よりもスグリと距離が近くなったみたいでうれしい。
     みたい、じゃなくて、たぶん本当に、心の距離が近くなってる。
     幸せだなぁ。

    「……なるほど。いわゆる惚気、というものですね」

     ずっと隣で僕の話を聞いていたオモダカさんが、大真面目な顔のまま頷いた。ニヤニヤする感じでもないし、ボタンみたいに砂糖吐くわーって呆れる感じでもなく、ひたすら真摯に話を受け止めてくれている。
     オモダカさんは、こういう人だ。すごく多忙な人だから、こうしてゆっくり話せる機会はあんまりないんだけど、どんな話でも嫌な顔をしないで聞き役に徹してくれて、気がつくとつい、僕ばっかり長く喋っちゃっていたりする。

    「あはは……そういえば、スグリをリーグにスカウトしたのって、スグリがパルデアで就職したら、僕もパルデアに居着くだろうって狙いもあったりしました?」
    「ふふふ。そんなことは」

     オモダカさんは『はい』とも『いいえ』とも言わずに、相変わらずにこにこしている。
     僕もスグリも、オモダカさんのスカウトがきっかけで、パルデアリーグの職員になった。ネモとボタンもだいたい同じ感じだったって聞いてる。僕らがまだ学生だったころからオモダカさんが精力的に勧誘活動をしていたから、いま、パルデアのリーグには優秀な人たちがどんどん集まってきてる。でもオモダカさんは、これからもいろんな地方に出向いて、もっともっと人を集めるつもりみたいだ。今回の出張も、実はその一環なんだとか。
     いろいろと読めない感じの人だけど、僕が今まで出会ってきた人たちのなかで、パルデアっていう地域への愛が誰よりも強い人だと思う。パルデアを盛り上げたいっていう気持ち……僕も、大好きな人やポケモンたちとの大切な思い出がたくさんあるパルデアが大好きだから、僕が何か役に立てることがあるなら、喜んで力になりたい。僕やネモがいればパルデアは安泰だってオモダカさんは言うけど、オモダカさんがリーグ委員長として指揮をとってるからこそ、パルデアは安泰なんだろうなって僕は思ってる。

    「まあ、結果として優秀なトレーナーを二人も確保することができて、安心しています。……そうそう。リーグへの誘致は貴方の推薦でもある旨をお伝えしたときは、スグリさん、とても喜んでおられましたよ」
    「えへへ。そっか。嬉しいなあ」
    「おふたりは仲がよろしいようで何よりです」
    「おかげさまで家族円満です。……なので、早くなんとかしちゃわないと。会えない日は電話するって約束してるので」

     正面を向き直って、見据えた先。僕たちが乗っている船が向かっている先に、大勢のポケモンたち――空の一角を埋め尽くすギャラドスの大群と、海面の岩場付近に陣取っているゴルダックの大群がいる。
     出張先で、たまたま現地のポケモンの大量発生が二件、同じエリアで重なった。……のはまだいいし、たまにあることなんだけど。今回の場合、大量発生したポケモンたちがお互いに縄張りを争って、大騒ぎになっちゃってる。
     たまたま別の地方のチャンピオン……つまり僕とオモダカさんが近くに来てるっていうことで、まわりの町やほかのポケモンたちに被害が出る前に、調査を兼ねて、僕たちが事態を納めに向かうことになった。というか、困ってる地元の人の話を聞いたオモダカさんが、流れるように、群れの鎮圧に向かうことを決めた。
     この出張はパルデアリーグの次の顔として、この地方のリーグの人に僕を紹介しに来たっていう側面もあるみたいで。ここで役に立っておけば、この地方でパルデアの印象が良くなるかも?……っていうこと、なのかな?

    「チャンピオンハルト。あのテラパゴスを制した腕前、期待していますよ」
    「あれは僕たちだけの力じゃないです。それに、こんな風に大勢と一度に戦うほうが、あの時よりもずっと大変ですよ」

     ふたつの勢力は、見るからに殺気立ってる。なるべく穏便に済ませられればって思ってたんだけど、バトルは避けられなさそうだ。

    「……でも。なんとかします」
    「頼もしいですね」

     あの頃、今よりもずっと細かったのに頼もしくって堪らなかった背中を思い出せば、自然と心が奮い立つ。スグリはやってみせたんだから、僕だって、負けてられない。

    「家で大切なパートナーが待ってるので。ノー残業です!」

     気合いを入れて投げたモンスターボールの中からウェーニバルが飛び出してきて、前方から飛んできた大きな水の塊を、蹴り一発で粉々に粉砕した。ばあん、と、船のエンジン音にも負けない派手な音と水しぶきが、花火みたいに船上に飛び散る。

    「ご心配なく。我々が、この船を護衛します。みなさんには決して危害を加えさせませんよ」

     びっくりしている船員さんたちを変わらない笑顔でなだめてから、オモダカさんは額に指を当てて、何事か考える仕草をする。

    「ゴルダックの、みずのはどう……我々の存在を感知したうえでの威嚇射撃、といったところでしょうか」
    「話し合い、通じないかもしれないですね……」

     船首にひらりと降り立って、水の尾羽を広げながら軽くステップを踏んだウェーニバルは、ボールの中で話を聞いてて、状況は把握してるみたいだ。なんでも任せなさい、って顔で、こっちを振り返ってみせている。

    「ウェーニバル。先に行って、偵察をお願い。ふたつの群れのリーダーを探して。あと、もし逃げ遅れてるポケモンがいたら、危ないって知らせて助けてあげて」

     ウェーニバルは頷いて、船の縁から大きく横へ飛んで、海へ降りた。足元に氷の膜を作り出しながら海上を滑っていく。アイススピナーの応用だ。
     くるくると優雅に舞い踊りながら船から離れて進んでいくウェーニバルを見送って、僕は自分でも、ポケモンの群れの中へ目を凝らしてみた。
     群れを統率してるリーダーがどこかにいるはず。戦うなら、その一匹だけを狙う。リーダーに力を認めてもらえれば、群れ全体に、こっちの話を聞いてもらいやすくなる。

    「オモダカさんはこのまま、船の護衛をお願いします」
    「はい。では、そちらは任せましたよ。……ああ、それと」
    「はい?」

     オモダカさんはずっと何か引っかかっていたことをやっと思い出した、というように、胸の前でぽんと手を打って、にっこりした。

    「ごちそうさまです」

     一瞬なんのことかと思っちゃったけど、「惚気話をうかがった際はこのように言うのが礼儀だと、チリから聞きまして」ってオモダカさんは悪意なくにこにこしてて、『砂糖吐くかと思ったわー』っていう、いつか見たボタンの顔とセリフが頭の中で再生されて、僕はまた、ちょっぴり苦笑いをした。
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    とらのめ

    DONEハルスグ短編

    ハルト君とスグリ君の傷のお話。お話の前半はDLC番外編後の時間軸、後半は成長後設定です。
    名無しの一般トレーナーがちょこっと登場します。
    リジェネレイト、アンダーレイン その日、ハルトが買い物のために立ち寄ったマリナードタウンの市場で、たまたま目と目が合うなり突然ポケモンバトルを挑んできたのは、ほかの地方からパルデアへ来たという、旅行者の少女だった。
     バトルの腕には自信があるのだと言っていた通り、少女はハルトがまだ見たことのない、相当に鍛え上げられたポケモンたちを次々と繰り出してきた。油断すれば、流れを持っていかれる。ハルトは互いのポケモンたちの動きを注視しながら、市場内のバトルコートで、暫くぶりにひりつくような緊張感を味わった。
     カミツオロチが相手の攻撃を耐えきってくれて生まれた隙に、すかさず反撃を叩き込んで、なんとか勝利をおさめることができた。相手のポケモンたちの強さと、彼らをそこまで鍛えた少女の実力を称えようと、ハルトが少女のほうへ駆け寄っていったとき。少女が、下を向いた。握り締めたモンスターボールを見つめる大きな瞳に、涙が滲んでいる。その姿に、過去の、ここではない場所の記憶が重なって見えた。ずきりと胸が痛んで、ハルトの足が止まる。
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