黒龍の愛し子ある村に、絶対に人間が立ち入ってはならない場所があった。
――神域。神が住む場所。
一度入れば、二度と出ることはできない。
「お母さん! お父さん!」
その日も、いつもの山菜採りで山へ入った。
ふたりに手をつながれ、胸が温かくなる。
しかし、次の瞬間──武器を持った、見知らぬ大人たちに囲まれた。
彼らの言葉は分からない。
だが、ここから逃げなければならないことだけは直感した。
父と母が、俺を庇うように抱きかかえ、走り出す。
飛んできた武器が、二人に迫る。
目の前が、一瞬で血の海になった。
「やだ……やだ、起きてよ! お母さん、お父さん!」
「なんだこのガキ、変な髪色しやがって……近くの村に捨てていこうぜ」
俺だけが殺されなかったのは、この見た目のせいだ。
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