沙●の唄みたいな悠脹 飽きもせず降っていた雨を、覚えている。鉛のように重たい曇天を、足元を不確かにするアスファルト上の波紋を、飛沫を。
高校一年生の六月。祖父が死んで、覚悟していたそれを受け入れて暫く。学校帰りに仏花を買って、別に花に喜ぶような人ではなかったけれどと気持ちばかりに携えて。仏壇には他にも供えるべき人たちの位牌も並んでいるから、別に特別な帰り道ではなかった。父母。遺影でしかほとんど顔を認識していなくても、こんにち自分が青春を謳歌できているのは彼らが互いを愛し合ってくれたからなのだと--と、殊勝なことを思うわけではないが、習慣なので。
花屋に寄った分、時間は日常の帰り時間とは少しずれていた。ほんの誤差くらいではある。だから、ほとんどいつもと変わらないような雨の日だった。
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