お題「ジャージ」「ぶかぶかの俺の服を着て恥ずかしそうにはにかむ恋人大好きドラゴン……」
「もうそのネタ古くない?」
昼休みの教室で、最近とんと見なくなったネットミームを神妙な面持ちで呟くルーク。ラシードは手元のスマホから視線を外す事なくつまらなさそうに返した。というのも、ルークがこの手の話題を出してくるのは決まって恋人・ジェイミーとの触れ合いが足りずストレスが溜まっている時なのだ。
「ジェイミーに会いたくて会いたくて震える」
「机揺れるからやめてね」
「頭の中のジェイミーはもちろん可愛いけど本物じゃないとダメだ……ジェイミー成分が足りない……」
この面倒臭い状態はジェイミーと存分にいちゃつけるまで続く。まるで酔っ払いが管を巻くように。普段はどんな話題にも笑顔で相槌を打つラシードもついつい辛辣になる。
「仕方ないじゃん。ジェイミーってば部活の助っ人で忙しいんだもん。頼まれたら断れない子だし、ルークもそういうとこが好きでしょ?」
「ぐぬぬ……」
いやでも、とルークが管を巻き直そうとした時、教室のドアが勢いよく開いた。
「おーいルーク! お前今日ジャージ持ってたりしねぇ? 俺のは朝練で汗だくになっちまってよ」
今の今まで話題になっていた恋人の登場にルークは一瞬固まったがすぐに意識を取り戻した。体育があると思い込んで持ってきていたそれに奇跡を感じながら素早くジェイミーに駆け寄る。
「これでいいか?」
「おっ、まじ? 助かるぜ、さんきゅー!」
ジャージを手渡す際にジェイミーの手を咄嗟にぎゅっと握る。相変わらず気持ちのいいすべすべの手だ。
「最近全然会えなかったから、今日顔見れて嬉しい……」
すり、と手の甲を撫でられてくすぐったいのかジェイミーはくふくふと笑う。
「ふふ、オタク君は寂しがり屋のワンコだな。もうちょっとで色々片付くからよ、良い子で待ってろよな」
「うん……」
頷いたものの名残惜しそうに手を離そうとしないルークに、ジェイミーは「そうだ」とおもむろに手渡されたジャージの上着を着始めた。きょとんとするルークに向かってジェイミーは悪戯っ子の笑みを浮かべる。
ルークのジャージは案の定ぶかぶかだった。ジャージの袖から少し指先を出した状態で顔の横に両手を持ってくると、こてん、と可愛らしく首を傾げた。
「彼シャツならぬ、彼ジャージ♡」
「???」
「にゃはは!」
激写激写激写。カシャシャシャシャシャシャと本能的にポケットから取り出したスマホで最大連写をキメるルーク。その反応に満足げに笑いながらもジェイミーの頬から耳は少し赤い。恥ずかしさを誤魔化すようにジェイミーはくるりと背を向け、「オタク君はこういうの好きそうだからな! その画像であと少し我慢してろよ!」と走り去ってしまった。
「…………」
呆然とその背を見送り、ルークは静かに席に戻り、ゆっくりと腰掛けた。天を仰ぎ、深く息を吐き出す。
「…………ジェイミーが可愛すぎてつらいトロイメライ」
「いい曲だよねぇ」
こうして、日々ラシードのスルースキルが磨かれていくのであった。
おわげき⭐︎