空閑汐♂デイリー【Memories】15 渡されたのは、精巧な銀細工のブローチだった。八年半もの間、この徽章を求めてきたのは嘘ではない。手のひらの上で真新しい光を放つ細い銀の線で構成された楕円形の徽章を見つめ、今この場に居ない男の事を想う。
「ミスターシオミ、受領のサインを」
流石に重要な受領確認は未だに紙で行われるらしい。教員が差し出したバインダーとペンを受け取って、少し考えてから肩口のペン差しに入れていたボールペンを抜き出す。
「良いものを持ってるな」
「これならずっと使えると思って、高校卒業の記念に買ったんですよ」
汐見の言葉に教員は鷹揚に頷き、サラサラと書かれていくサインを見つめていた。それはかつて同じ場所を目指していた愛しい男と揃えで買った白銀色に輝くボールペンだった。
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