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    did_97

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    エボマサくんとセボさんとの邂逅話

    【マサセイ】動き出す歯車 その少年は、エスパージムスタジアムを構えてしばらく経った頃に訪れた。

     牢獄のようだった屋敷を飛び出し、マスター道場に入門して数年間修業に明け暮れた。実の親族に蔑まれ、冷視される日々から逃れたい一心だった。それ故に入門した当初は、確たる目的もなく虚空を見つめていることが多かった。エスパージムリーダーを志し、邁進出来るようになったのは、偏にマスタード夫婦や周囲の門下生達のおかげだ。彼らがセイボリーをありのままに受け入れ、鼓舞してくれたおかげで夢を現実に変えられた。
     窮屈なしきたりに縛られた旧エスパージムは解体され、町の中心部に新しいスタジアムが建設された。マイナークラスであるために最低限の設備しか置かれていない、小ぢんまりとしたものだったが、今はこれでいい。道場を卒業した後、ガラル中を巡ってスカウトしたトレーナー達も不服を述べず、メジャーランクにあがるための鍛錬を続けてくれている。
     彼らはエスパーポケモン使いとして優れた実力を持っていたのに、サイキッカー一族でないという理由だけで弾かれていた者達だった。誰もが本物のサイキッカーであるセイボリーを尊敬し、感謝している。テレキネシス以外の能力を使えないと知っても、差別的な目を向けなかった。
     ポケモンリーグ公認スタジアムとして、このエスパージムがリストに載っているのが誇らしい。しかしセイボリーは他の町を守るジムリーダーとほぼ会っておらず、ダンデからその座を受け継いだ新チャンピオンの姿も知らない。噂では年若い少年であるらしいが、ジムリーダーに就任して以降は日付や曜日を意識している暇がない程多忙であり、テレビでチャンピオンマッチを観戦している余裕さえなかった。
     無敗のダンデを打ち破った新チャンピオンとは、一体何者なのだろう。頭の隅で気にしてはいたが、それ以前にまずはエスパージムを軌道に乗せねばなるまい。
     朝一番にスタジアムへ行き、出入り口の扉を開錠していると、背後に人の気配がした。じわじわと身体の内側から蝕んでいく毒針のような視線。この感覚は忌まわしい記憶を呼び起こす。道場に逃げ込む前のセイボリーであれば、恐怖に震えて蹲っていたことだろう。
     セイボリーは首だけを振り返らせて、視線の主を確認する。刺繍がやたらと煌びやかなウエストコートと臙脂色のブリーチズを身に着け、その上にロングコートを羽織った、見てくれだけが洒落ている男が二人並んでいた。彼らはサイキッカー一族の屋敷にいた者達だ。
    「くくっ……我らが主からリーダーの座を奪い取った男が、どんなジムを構えたのかと思えば……」
    「なんと貧相な佇まい……。やはりお前は、一族の恥晒しだな」
     二人は屋敷にいた頃から、とりわけ一族の長――――セイボリーの父に心酔していた。セイボリーがジムトレーナーの末席に身を置いていた頃は、リーダーを務めていた父を守護していたこともあり、憎悪は人一倍深いのだろう。
    「……何用です?わざわざ謗言だけを吐きに、ここまで来たのではないでしょう?」
     問うと男達はテレキネシスを使い、周囲にニ、三つのボールを浮かせた。ジムトレーナー達が来て邪魔が入る前に、セイボリーを始末するつもりのようだ。
    「テレパシーを使えぬ癖に、察しはいい……」
    「お前はリーダーに相応しい身分ではない。我が主に返してもらうぞ」
     セイボリーの眉が吊り上がる。身分、才能。そのような形なきものに拘泥していたからこそ、かつて栄華を誇った一族は凋落していったのではないのか。反論したかったが、あえて口を閉ざした。
     記憶が確かなら、彼らは父から突出した能力を持つエスパーポケモンを授けられていたはずだ。数の上でも戦力でも、完全に不利であった。しかし折角掴んだ地位を、彼らのような下卑た者達に追われるわけにはいかない。この野試合では、一秒たりとも気を抜けない。
    「やめろ」
     一触即発の状況で、男性の声が割って入る。低く、威圧感のあるそれから青年かと思ったが、二人の男を交互に睨み付けていたのは、遥かに年下であろう少年だった。背中を丸ごと覆う大きなバッグを背負い、ショルダーハーネスを掴んでいる姿は年相応に見える。一方でダークブラウンの瞳から放たれる鋭い眼光は、強者の覇気を滲ませていた。
    「何者だ。我らを阻もうというなら、たとえ子供であろうと……――――」
     男の一人が超能力を行使しようとしたところで、もう一人が耳打ちする。彼が何を伝えたかは、セイボリーには窺い知れない。耳打ちされた男の顔は、みるみる青ざめていった。
    「その人は、正真正銘ジムチャレンジ運営が認めたリーダーだ。もし危害を加えるというのなら……」
     少年はポケットに入れていたモンスターボールを一つ取り出し、臨戦態勢をとる。対し二人の男は揃ってボールを引っ込めた。
    「――――失礼した」
     形だけの礼をして、二人は足早に去っていく。人としては兎も角、実力は高いはずの彼らが戦わずして逃げるなんて。セイボリーは少年の方に向き直る。彼は十数秒前とは別人のように無邪気な表情になり、セイボリーに駆け寄ってきていた。
    「お兄さん、大丈夫?」
    「え……ええ……」
     セイボリーが戸惑い混じりの返事をすると、少年は満面に喜色を湛える。褐色の肌と相俟って、如何にもわんぱくな子供らしい。
    「よかった!あいつらの言う“あるじ”って誰のことか分からないけど、ジムリーダーは絶対お兄さんの方がいいと思うから……」
     少年の言葉には、妙な含みがあるように思えた。セイボリーは渋面を作る。素性を明かさないことへの怒りではない。初めて会ったばかりの自身に対して、無根拠に断言している彼を訝しんでいた。
     己は今し方逃げていった二人が言うように、落ちこぼれなのだ。本来ジムリーダーの器でなかったことなど、自身が一番分かっている。道場での修業を経て、ようやくサイキッカーとして、一人のトレーナーとしての自分を肯定出来るようになったのに、経緯を一切知らないはずの少年がどうして。
    「あ、ごめん。なんか怒らせちゃった?」
    「いえ……。ですがワタクシとあなたは初対面でしょう?それなのに何故ホワイ知った風なことを言うのかと……」
    「うーん……よく分かんないけどオレ、人を見る目があるみたいなんだ。さっきの奴らのように、表面に出てる仕草や言葉遣いが丁寧な人でも心が汚いなってすぐ勘付くし」
     そういえば彼は、二人の男達と対峙している時もセイボリーの方を咎めなかった。セイボリーが真実ジムリーダーの座を強奪した可能性もゼロではないのに、男達の方が悪だと即座に判断していたのだ。
     “みたい”と曖昧な言い回しをしていたことから、他己評価による自信ではあるのだろう。彼の目に映る己は善の側だったということか。或いは―――。セイボリーはどういうわけか、会って間もない少年に意識を持っていかれていた。
    「いやーでも新しいエスパージムリーダーが、お兄さんみたいな綺麗な人で本当に良かった!」
    「綺麗……?」
    「これから一緒にガラルを支えていくことを考えたら、身も心も綺麗な人の方がいいじゃん。やっぱり」
     少年が白い歯を見せてにかっと笑う一方、セイボリーは呆気にとられていた。ぽかんと開けた口が塞がらない。道場では他の門下生達やマスタード一家を振り回していたのに、今は年下の少年に翻弄されてしまっている。
    「それじゃ、また。お兄さん強いから大丈夫だと思うけど、悪い人達には気をつけてね!」
     彼の慧眼は、このわずかな時間でセイボリーのどこまでを見抜いたのか。結局最後まで正体を明かすことなく、少年は大きく手を振りながら去っていく。
     セイボリーは応えて小さく手を振り返す。そして彼の姿が見えなくなったタイミングでジムスタジアムに入り、リーダー用の控室に足を向ける。
     ふと部屋の壁に沿うように置かれた雑誌ラックを見て、セイボリーは大きく目を開き驚愕した。今週頭に発行されたポケモンジャーナルの表紙に、今し方会った少年の写真が載っていたからだ。見出しには“話題沸騰中の新チャンピオン”と記されていた。
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