ルルの扱いに困るサタケ隊長と駆けつけたイサミと元気なルル サタイサ+ルル2024/06/28
@uhyo5
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だいぶ遠くから(駆け足!早く来い!今すぐ!支援を頼む!気がついてくれー!)という視線をイサミに投げるサタケがそこにはいた。
「?」
イサミは視線で呼ばれたのでサタケの元へ走り敬礼をし、サタケの足元にいるルルの方にも視線を向ける
「ガガピー!!ルルも!ルルもー!」
「先程からこの調子で俺から離れないし何か要望があるようなんだが…参った」
「イサミぃ!」
「お、おう?」
名前を覚えられている。驚きつつも返事をし、対応を考える
「少し話をさせてもらってもいいですか?」
「頼む…」
どのぐらい小さな地球外生命体の相手をしていたのかは分からないが隊長は相当に参っているようだった。しかし無理もない。俺だってそうなる。ただ俺の場合規格外のパワーで襲われるという未知との遭遇経験だったが…肉体言語?拳で語り合う?殴って分かり合うなんてナンセンスだ。
正直な所急に噛みつかれるような気がして恐ろしさも感じているが側に隊長がいて見守ってくれているので上手くやれるような気がする。気が大きくなる。これが…勇気…?毒されてきているな…いや今はその話はいい。
おそらくルルはスミスを探しているが語彙が少なくて上手く伝えられないのだろう。
この様子だとルルは隊長の事は恐がってはいないはず。しかし自分に対してはどうだろうか。これまでの事を思い浮かべると…
イサミはルルと視線を合わせる為にしゃがみ、できるだけ優しい声で訪ねる事にした。自分の容姿や態度は人から恐がられる傾向にあるという自覚からの行動だった。それが原因でルルから襲われたのかもしれないと心に引っかかっていたのもある。
まずは挨拶
「あー…こんにちは、ルル」
「ガガピ。こんいちはーイサミ」
順調だ。肉体言語ではない言葉で返された。
「…スミスはどこだ?」
「スミスおいてきた」
「置いてきた。なるほど…」
イサミはルルがスミスを探しているのだろうとあたりをつけており、スミスの居場所を聞く。分からないと答えたら一緒に探そうと促し彼らの元へ連れていくつもりだったが空振った。スミスは置いて行かれたらしい。
そういう事もあるんだな。
どうすんだよこれ。
サタケの方にどうすれば?と助けを求める視線を向けるがサタケは俺もそれに近いことは聞いたがまるで分からん。続けろ。という視線を返した。こちらは言葉が無くとも伝わる。
「ええと、ルルは何かサタケ隊長に…」
サタケの名を呼び手を向けて示した所で
「さたちょ!!」
ルルが指差しながらなんとも言えない呼び方をした。サタケ隊長という音を発声するのが難しいのかもしれない
「さた…ちょ……」
固まるサタケ。
このまま続けますけどいいですか?とサタケの方に視線やり伺いを立てる。
サタケは軽くショックを受けたまま頷いた
このまま相手が使う言葉を使ってやるしかない。
「コホン、えー…その。『さたちょ』に用があるのか?」
「ある!さたちょ!」
サタケは見当がつかないようで更に困っている。こういう時に限って誰も通りかからない、なんでだよ。
隊長に無理なら俺にも無理なのでは?イサミが弱気になっている所にルルが複数の言語が混じった言葉で喋りかけてきた。
「ヒビキがイサミ、さたちょにかりー教えてもらってるって言ってた。さたちょはてつ…タツジンガガピ」
「イサミにかり…?教える…狩?もしかして訓練か。それは教えているな」
「多分それカレーの事だと思います」
「そっちかあ〜…」
脱力するサタケ。
どうやらルルはヒビキ達からイサミがサタケにカレー作りを教わっている事を聞いて自分にもと頼みに来たようだった。
何を教えているんだよヒビキお前。地球外生命体に許可なく俺の情報を教えるな。地球外生命体にじゃなくともそういうのを無闇矢鱈に教えるのはよくないんだ。
ただ…カレーというのなら話は変わってくる。
「カレーならこちらの隊に材料があるから時間と場所を整えれば教えながら作れるかもしれませんね」
「港に着いた後なら金曜、それかカレーの炊き出しに合わせて呼んで手伝いも兼ねて教えてやれるかもしれんな、保護者達に許可をとらないと…」
「うちの主力のカレーの威力を見せつけてやるべきです」
「海自には負けてられないからな」
カレー作りを教える予定を組み立てるやり取りは瞬時に加速していく。カレーには常に真剣である。誇りがある。
そこにルルが思いもよらぬ事を言った
「バースデーにケーキ!スミスにあげる。さたちょルルにケーキおしえて!」
「えっ」
「ケーキ」
カレー作りならばと思考が切り替わり早口で案を出していた2人は急ブレーキをかけた。
ルルは料理のタツジンだというサタケから食べ物の作り方を教えてもらいたかった。イサミのように。
しかしそれはカレーではなくスミスのバースデーケーキだという。つまり日付が決まっている。
サタケは手元のタブレットから彼の誕生日を確認する。近々…そして移動予定中の日付だ。どうしたものか…。
イサミは宇宙から来たルルからこの短期間で地球で比較的一般的なイベントをしてやりたいという意味の言葉が出てきた事に驚いていた。言語習得の早さにも驚かされるが環境に順応するのがあまりにも早い。その変化のスピードは環境に合わせて変化するゾルダードテラーを彷彿とさせて一抹の不安がよぎるが…
地球上のアルビノという物ともやや異なるという珍しい色合いの風貌、手に埋め込まれているという謎の金属。体格の割に優れた運動能力を持つ事以外は地球人の幼子とほぼ変わらないではないか。
いや?…本当に変わらないか?結構違うか…やはりブレイバーン達のせいで俺の感覚は最近おかしくなっている…
そして今この状況でケーキを作れるのか、作っていいのかイサミには分からなかった。
ただ、ルルから今頼まれた事は出来るだけ叶えてやりたいとは思った。
癪ではあるが謎の技術力を持つブレイバーンに応援を頼む事も視野に入れなくてはいけないかもしれない。
その前にサタケがそんな余裕は無い無理だと突っぱねて許可を出さないということもあり得る。この状況ならそうだろう。でも俺の尊敬する隊長は、隊長ならもしかしたら…期待を込めてそちらの方を見やる
さっきまで元気よく飛び跳ねていたルルも押し黙ってイサミと同じ方向を見上げていた
サタケは斜め上を見つめて暫し考えている風だったが手元のタブレットを操作しようとして目線を下に落とす途中で2人からの視線に気がつき
「立派なバースデーケーキと言えるような物を作るのは難しいかもしれない」
と答えた
「ガピ…」
ルルの思い描くような希望には応えられないというニュアンスは伝わったのか分かりやすくしおれるルル。
そうだよな、それもそうだとイサミも眉をややハの字にする。イサミの表情の変化はよく観察しないと分からない物だがサタケは読み取る事が出来ていた。
「揃ってそんな顔をするな、まあ待て。早合点するな。派手なのは作れないかもしれないがどうにか出来ないか調べて考えている最中なんだ。待てるよな?ん?」
「ガガピ!」「…はい」
ルルは勢いよく手を上げながら返事をし、イサミもまとめて子供扱いされたからか不服そうではあるものの少し嬉しそうに返事をした。
ちなみにこの時のサタケは上目遣いで眉をハの字にしこちらの様子を伺うイサミのあまりのいじらしさについ頭を撫でてしまう所だった。強靭な精神力でなんとか押しとどめたが。
普段素っ気ない鉄面皮だと思われがちなイサミからあんなにかわいい表情を向けられたら頭をぐしゃぐしゃと撫でてやりたい衝動に駆られない人類はいないだろう。あ〜もうそんな顔をするな、俺が無理にでも何とかしてやるから心配するな、その子の為に一緒に悲しがるその優しさ。守りたい。今すぐ抱き締めて安心させてやりたくなる。
そんな事を俺以外に思うやつがいたら、実行するやつがいたら俺が阻止するが…イサミが俺の部下で良かった。うん。
「…何か甘味を作れるような材料、これはこっちで用意するか。厨房の1角を借りられないか聞いてみよう」
「えっ、ケーキを作るんですか?」
「ケーキは無理だが簡単な菓子なら作れるだろう、それに…」
サタケはルルの方を見た
「君は達人の俺から教えてもらいたい。そうだな?」
「ガガピーー!!」
壊れた機械音のような金切り声は相変わらず何を言っているのかは分からない。だが肯定である事は態度から疑いようが無かった。動きは嬉しさが大爆発したアメリカ人がいかにもやりそうな大袈裟なそれだ。
「でもこんな個人的な事をして問題になりませんか?」
「宇宙からの大事な客人が地球でお世話になった人間を地球の作法で祝いたい。それに直接の頼みだぞ?応えるのは地球人として当然だろう」
「そう、なんでしょうか」
「そうだ」
同じく宇宙?から地球に来た客人とも言えなくもない謎の存在のブレイバーンにここ最近大いに振り回されているイサミには思う所があったが、
尊敬している男がそう言いきるのならそうかもしれない、イサミは混乱しつつもこの場では無理やり納得した。
サタケは規律を守る一方で大胆に逸脱した行動を取る事もある、イサミはサタケのそういう所も好きで憧れている。
やけに目立つ赤いジャケットを着ているのも大方上や周りに話をつけてきて着ているのだろう、周りから何か言われている様子もない。
TS乗りとしても強い上に指揮も出来るし人望も厚い、それに料理も出来る。いつか俺もこんな風に…
それに隊長は元々派手な祭りだとかちょっとしたイベントだとか誰かに何かをふるまうのが多分好きなのだ。今回の件も趣味でストレス発散も兼ねているに違いない。
実際俺にとっても計画を立てる為にああでもないこうでもないと隊長と話すのはスケジュールが更に過密になるものの思い詰めすぎを防いで良い気晴らしになるなと感じた。
ブレイバーンに続き同じ陣営内にいる得体のしれない存在その2のルルの事も少しは理解できたような気もする。まるで理解できない存在よりは多少は理解出来ていた方が精神なる。的な負担は軽くなる。
ルルとは何なのか…スミスの言い訳…説明ではルルを秘密裏に保護しようとして奔走している途中、心肺停止状態と気が付き処置。意識が回復した時に見た目からは想像出来ない格闘戦で襲いかかってきたという。かと思えば一転してスミスに懐き、…俺には襲いかかってくる。
今回ルルはサタケ隊長に料理を教えてほしいと頼みに来ており、当初はその目的が分からなかった為対話を試みた。その際殴られ噛まれるぐらいの事は覚悟していたが今の所は襲いかかっては来ない。
スミスの必死な言い訳を思い返していたイサミはふと気が付きルルに質問をした
「そういえばサタケ隊長に会いに行くとスミスに言ってから置いてきたんだよな?」
「ガピ。スミスにはひみつ。サプライズにする」
ルルは教えられた地球のサプライズパーティーの作法に習ってそれを忠実にやりたいようだった。
「なるほど…」
「どう言い訳をするかの検討が目下の急務だな」
「きゅーむだな!」
これを秘密にするのは骨が折れるなと誕生日、サプライズという文化を吹き込んだであろうヒビキ、ミユ、ホノカ達に目星をつけ何人かを協力者として巻き込むと決める。
スミスからルルという存在をサプライズでもたらされこちらも上も下も合わせて全員大層驚かされたのだ、こちらからもささやかな迎撃…お返しをしてもいいだろう。
おそらく今もどこかを必死に探し回っているであろうスミスとその仲間達を想像してサタケとイサミは顔を見合わせて苦笑いをした。