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    ##刀剣異聞奇譚

    邂逅 誰かが僕に話しかけている。目の前は真っ暗で身体は動かせない。答えようとしても口すら動かすことが叶わなかった。僕に話しかけているものは誰だと僕は暗闇に問う。
    だが、言葉を聞き取ることが叶わない。かすかに聞こえる声は、どこかで聞いたことがあるような気がするし、少し違うような感覚もあった。僕は今までなにをしていたのだろう。
     ここは一体何処だ。僕は一体なんだ。その疑問が湧き上がった途端に何かを思い出す。それは、目の前でちらちらと揺れる。熱気と飛び交う怒号、悲鳴、叫びが蘇ってくる。
     炎。燃え盛り、崩れていく本丸。敵が乗り込んできて、皆で立ち向かった。信頼出来る刀に主を任せて、そして、僕は……。

    ――貴方も来て、はやくこっちに……!

     悲痛に叫びながら僕を呼ぶ。駄目だここで僕まで行っては。その人物から伸ばされた手は、僕を掴んだ。途端に、すべての情報が戻ってくる。何かから醒めた、あるいは何かから引き上げられるような感覚。音が鮮明に聞こえて、頭が割れるように痛い。

    「よかったね。折る羽目にならなくて」
    「まったくじゃあ……ちくっとばあぞうもんだちや」
     誰かに抱えられているのか。ごほ、と咳き込んだ。息もうまく吸えず苦しい。何がどうなっているのだろう、政府から救援が来たのか。
     主はどうなった。それを聞きたくて僕を抱えている男の服を掴もうとし、固まった。胸元の留め具、それには紋が刻まれて、それが目に飛び込んできた。その男の紋は碇に桔梗。そんな紋の刀など僕は知らない。みるみる頭と目が冷めていく。
    「彼、菊に一だけど、僕が知っている刀とは違うね。君のところとも違う?」
    「知らんにゃあ、菊に一の刀はおったがやけど太刀やき。こいつは打刀じゃ」
     淡い藤色の髪の男は四角にルのような線が入った紋をつけている。似た顔は知っている。だが違う。
    「あとは頼める?僕は室長に連絡しなくちゃ。遡行軍から一振り、どこかの男士へと引き戻せたってね」
    「おう、任せちょけ」
     僕を抱えている男のその顔は、僕もよく知る顔に違いなかった。だが、その髪色の一部が赤くなっている。服装も、僕が見知ったものと全く違う。誰だ、こいつは。身を起こそうともがく。
    「大人しくせえや。まぁたたごって血を吐くぞ」
    「……だれだ、おまえは」
    「わしか?わしは陸奥守吉行じゃ。わしがいた所では、天誅上手と言われた岡田以蔵の佩刀、と言えば少しは分かるかえ?おんしゃあの状況が」
     男は、陸奥守吉行と名乗った刀は薄く笑みを浮かべる。僕は何も言えなかった。それだけでなんとなく理解をしてしまったから。
    ――ここは、僕のいた歴史ではない。



    ***
    「サンちゃん、その子寝たの」
    「いんや、血ぃ流しすぎて気絶しちゅうよ。室長はなんかいうちょったかえ、ヨツ」
    「君と話したいってさ」
     サンちゃんと呼ばれた陸奥守吉行は、深いため息をついた。先ほどまでいいだけ暴れていたが、ぱったり動かなくなった。失血だけで折れるほど軟弱な刀ではなくてよかったと陸奥守は安堵している。とりあえず部屋に戻ったら軽く手当をして話にいかねばならない。ヨツと呼ばれた刀は、気絶している男士の顔を覗き込みながらニコニコしている。機嫌がいいようだ。
    「いつぶりかな、新入りなんて」
    「新入りになるかはわからん。こいつの返答次第じゃな」
     返答次第、それによっては対処が変わる。まあそうなんだけれどね、とヨツと呼ばれた刀は肩をすくめた。長らく二人で過ごしていた。長らくといっても、打たれてからの時間に比べればとんと短い、瞬きの間のような時間。だが、人の身で過ごすその時間はあまりにも長かった。だから新入りをうれしく思うのは仕方ないのだ。
    「サンちゃん、君もちゃんと手当てしてね。最近働きすぎだよ。僕も室長に直接会えればいいのだけど」
    「すぐ死ぬような傷でもない。わしは報告やらほかのもんが終わってからでえいよ。まあ、室長にあったところでどうにもならんにゃあ」
     ここは慶応の時代にある甲府。普段は閉ざされ行き来が封じられた放棄された世界。いずれ戦力として各本丸の刀剣男士も来るだろうが、現状その様子はない。
     まだわからないことだらけで、目下調査中というわけだ。今回、ふたりがこの時間軸に来ることになった理由は戦って修正をするためではない。政府所属の刀剣からの報告により遡行軍のなかに今まで見たことがない個体がいるとのことで仕事が回ってきた。その個体を男士の姿に引き戻すために赴いたのだ。
     遡行軍の刀剣は基本的にすべて同じに見える。それは名を残していない刀剣だからという見解もあるが、それだけではない。この時間軸に存在しない刀剣男士の姿も、同じような姿として認識される。ここの歴史から拒絶されているのか、どういうわけなのかはわからないが。
     この菊に一の紋を持つ刀は、ほぼこの半分ほどその姿に変化していた。時折苦しみ、その度に何かを握っていた。他の遡行軍と異なって、ほかの刀剣を遠戦から庇うような行動も取っていた。
     陸奥守は握っているものが“御守”であることに気付き、それが発動しないようなんとか声をかけ続けながら戦った。彼が使用できる“御守”は手に持っているその一つだけ。
     ならば今ここで使わせるべきではない。もし、自分たちと同じように戦うことを選んでくれるなら、いつかその“御守”が必要になるときがくる。
     ヨツと呼ばれた刀には素っ気なく返していたが、実のところこの陸奥守もできれば力を貸すと言ってほしいと願っている。
    「あ、ねえ。サンちゃん。寝台一つしかないからさ、僕かサンちゃんのどっちかが床で寝ることになるね」
    「ヨツ、不寝番の間違いか?」
    「あはは。なるほど、寝床が足りないなら起きていればいいじゃない、と」
     冗談交じりに話をしながらふたりは帰還ゲートまでたどり着き、時の政府へと帰還した。帰還の際、外来刀剣拾得個体三号、外来刀剣拾得個体四号、未確認外来刀剣拾得個体、と文字が表示される。

    ――刀剣異聞奇譚。これは他の歴史の中で生まれ、この歴史のために戦うことを選んだ珍しい刀剣達の話である。
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