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    朝尊の話。どんどん余裕がなくなっていく朝尊。今多分赤疲労。
    そして塞ノ神、製鉄の神、旅の神の面がある誰か。

    ##梟は黄昏に飛ぶ

    行先 いくつか電車を乗り継いだ。そして最後の電車を降り、駅から出ると僕は朝尊に連れられて歩く。朝尊は僕の右の手首あたりを掴んで迷いなく進んでいた。昼間だが、駅前にあまり人通りはない。次は一体何処に行こうというのだろう。
    「タガノキ跡の鬼門にある社に用事があってね」
     朝尊はそれだけ言った。タガノキ、聞きなじみのない音でピンとこなかったが、街の標識を見て僕は理解した。
    「これをタガノキと読むんだね」
     朝尊は小さくうなずく。その鬼門、北東の位置に何か建物があるということだろう。史跡を尻目に僕たちは歩いて進む。相変わらず、人々は朝尊を見ない。僕は気付いていなかったが、おそらく道行く人々は僕の姿も見ていない。町もとても大きいというわけでもなく、駅からは住宅街を通って進んだ。そして、細い私道のような道を進み、左に曲がると、その目的地はあった。朱塗りの鳥居、古びた社。聞いたことがあまりない神様を祀る神社。参道を通り、ほどなくして靴が多く奉納されている社にたどり着いた。
     そこに、誰かがいた。
    「ずいぶんとお急ぎだな」
     朝尊は黙っていた。じっとその誰かを見つめている。後頭部の高い位置で一つにまとめた髪は白く、どこか蛇を思わせる雰囲気を持っていた。少しくたびれた白衣とその下にはワイシャツ、黒のスラックスという恰好。
    「で、ここに来たってことは、政府にいる俺に用事があるわけではなく、ここに祀られている存在に用事があるってことだろ?何の用事?お前、追われているって自覚ある?」
     相手は矢継ぎ早に朝尊へと言葉を投げかけた。怒っているわけではないようだが、朝尊の真意を推し量りたいような雰囲気だった。何がしたいのか、何故ここに来たのか、その行動に見合う理由があるのかと、聞いているように僕には聞こえた。
    「だから『ここにいる貴方』に会いに来た。僕は花巻の方まで行きたい。そちらから、もっと北上をするつもりです」
    「フーン……なるほどねえ、北か」
     俺でもあっちの方までは飛ばせないからな、とか、ぶつぶつと呟いていた。そして、彼は言う。
    「お前さ、時の政府から逃げられると本当に思っているのか?その子供は大丈夫でも、お前はどっちに転んでも『死ぬ』だろうよ」
     僕は朝尊を見た。朝尊は僕の視線を感じたのか、穏やかに微笑む。気にすることはないというような表情だった。
    「問題はないかと。僕自身死ぬつもりは毛頭ありませんが」
     朝尊ははっきりと言い放った。目の前にいる誰かは眉間にしわを寄せた。だが、何かを言おうとしてやめだやめだ、と手を振りながらいうと、大きくため息をつき、こっちに来いというのだ。朝尊はわずかに安心したようだった。朝尊の手がわずかに汗ばんでいたのも分かった。彼は緊張していたのだ。
    「お前が何処に行こうとしているのか、まあ分らねえけど、お望み通り花巻に連れて行ってやる。お前、もし知らないならかわいそうだから教えてやるが、もっと北にも社はあるからな」
     朝尊は頷いた。知っているのかもしれない。社の裏まで僕たちを連れて行った。そして瞬きの間に、彼は目の前から消えた。いや、僕たちの方があの場から移動したのだ。気か付くと全く別の場所に佇んでいることが分かった。僕たちを包んでいた空気が変わったのがわかる。森の木々の香りがする。朝尊は隣にいた。山の中だろうか。背後には苔生した大きな岩がある。注連縄がぐるりと一周していて、もしかしたらご神体なのかもしれないと思った。
    「ここは?」
     僕のつぶやきに朝尊は少しだけ惑う様子を見せたが、何も語らず行こうとだけ言う。カランという音が聞こえ、ふと後ろを振り向くと、白く大きな何かが苔生した大岩の隙間に入り込んだような気がした。注連縄に下げられた大きな鈴が揺れている。朝尊は僕の手を引き、斜面をくだっていく。僕のポケットにずっしりとした重みがあることに今更ながら気付いた。左手で探ろうにも黒いコートを抱えており、右手は朝尊にひかれているので確認することが叶わない。細長い形状をしているように思えた。
     ほどなくして大き目の屋根が見えた。そこで僕は察した。ここも神社だと。朝尊は足早にその境内を通り抜けていく。僕の中での考えが初めそんなことはあり得ない、というものだったけれど、もしかしたら、と移り変わり、今では本当にそうなのではないかというところまで傾いている。僕は今まで、神だとかそういったものに対して懐疑的だった。懐疑的だからと言って、無礼を働くことはなかったけれど、そういった存在は人間が都合よく作り出した偶像であって、実際には存在しないものだと考えていた。神話でさえも自分たちの行いを正当化するために敵をわざと怪物として、その討伐を正当化しているのだと、そういった解釈をしていた。
     僕は朝尊を見た。彼はどこかから僕を助けに来たのではなくて、初めから僕の家に居たのかもしれない。仏間にあった刀を抜いたことで、彼はあの場に現れたのだから。
     アスファルトで舗装されているが歩道のない道にたどり着く。車一台が通るだけで精一杯であろう道は下り坂になっていて、僕たちはそこを道沿いに進んだ。車通りはそれほどない。
    「朝尊」
     僕は呼びかける。彼は僕の方を見ずに、もう少し歩けるかい、と尋ねてくる。それはもちろんと僕は答えた。あたりは薄暗くなってきていて、夜が迫ってきている。彼の顔色があまり優れていないことに気付いた。彼だってもう気付いているはずだ。僕に何かを隠し通すことなど出来ないということくらい。途中で交通機関の利用をやめて神頼みのようなことをしたのは、それだけ僕たちを追うものが近づいていたからではないのだろうか。
     話して欲しい、と言いたかったけれど、僕は口を噤んだ。何も知らないことが僕にとって利があると判断しているから伏せている。あの神社にいた白い髪の人物は『政府』といった。
     先ほどと比べて道は対向車が通過できるような幅になった。時折、木々は途切れそこに農家だろうか。民家が立っている。そこから少し進むと集落のような場所にまで行きついた。民家の明かりが窓から零れている。とうとう日が落ちて、頼りない街灯が道を等間隔に照らしていた。僕を助けてくれた夜を思い出す。まだ、あれから一週間ほどしかたっていない。
    「本当は、君を背負って歩けたら良かったのだが」
     朝尊にも疲労は溜まっている。当り前だ。彼はずっと僕を守ってくれている。人ではないが人に近いもの、それが今の僕が朝尊に抱いている認識となった。
    「朝尊、少し休憩しようよ」
    「……いや、もう少し進まなければ。すまないが頑張れるかね」
     僕はまだ歩ける。運動はてんでできないけれど、体力はまだある。足もまだ大丈夫だ。十分歩ける。けれど、朝尊の顔色があまり良くない。やはり、怪我をしているんじゃないだろうか。ただ、何を言っても聞きそうにないのは分かった。僕は無駄な問答をして朝尊の体力をいたずらに削るよりも、黙って歩いたほうがいいと判断した。

     夜のうちに移動するのは人目を避けるためなのか、それ以外の理由なのか僕には分らない。延々と人通りのない道を歩き続ける。時折、白い漆喰の塀に囲まれた建物が見える。建物の細かい様式はおそらく異なっていると思うけれど、僕の家の近くにあったあの日本屋敷と同種のものだと感じた。それを朝尊もちらと見たことに気付いた。暗くて表情はよくわからなかったけれど、その様子は寂しさ、悲しさを思わせた。
     このあたりのことを知っているのだろうか。やはり朝尊の進み方に迷いはなく、明確にどこかに向かっている、という進み方だった。
    「山の中は歩かないの」
     質問は止そうと思ったのに、思わず口を開いて尋ねてしまう。
    「このあたりは古いものが多いからね。許可なく立ち入らない方がいい」
     古いもの、というのは物品を指しているわけではないのは僕にも分かる。疲労からか朝尊はあまり細かいところに気が回っていない。今聞けば、おそらく何か重要な情報も零すだろう。でも、それは彼の考えを裏切ることになると感じる。足音が暗闇の中に響いていた。やはり、今は下手な質問は止そう。
     僕はそれ以降だんまりを決めた。僕の手を引き、半歩ほど先歩進む朝尊の様子を僕は観察する。彼が時折、ごほ、と咳き込み、ほんのわずかだが歩き方にも違和感がある。出会った当初はそんなことはなかった。ほんの一週間ほどの間で、彼は傷ついている。僕に出来ることは何だというのだろう。彼は僕を頼りにしようとしない。
     時計がないため、何時間歩いているのかは分からない。途中川をにかかった橋を渡ったのは分かった。ようやく町が見えてきて、先ほどまでの道とは違い、町明かりの中を進んでいった。車は時折通り、夜遅くまで営業している店はまだ開いている。
     どこまで行くつもりなのだろう。そう思ったときに、朝尊は町中にある民家のひとつへと入っていった。表札も何もかかっておらず、家の中は真っ暗で人が生活しているような感じはしない。
    「ここは電気も水も通ってはいないが、今日はここで休もう」
    「えっと、この家は」
    「主の生家でね」
     本当に彼は意識せずに言ったようだ。まずいことを言いそうになった時、いつも黙り込んだり、そもそもいう前に濁したりするのだけれど、それもなかった。ただ、事実として告げたのだ。朝尊はそのまますぐに寝入ってしまった。誰も来ない、そう確信があるからなのかもしれない。僕は朝尊に黒いコートをかけて、そのまま真っ暗な家の中で起きていた。家具は残っている。外からの街灯の明かりで、わずかに家の中の様子が見える。食器棚の中には食器が残っていて、埃をかぶっていた。テレビは埃をかぶり、時計は三時三十一分ごろを指して、そのまま止まっている。真っ暗な中で、僕はポケットの中に何が入っているのかを見ることにした。くるくると布でくるまれているものを僕はほどいて中身を見る。
     鋏だった。昔ながらのよく裁縫道具に入っているような握り鋏だ。真新しく見える。蛇のようだと思った。蛇の頭、神社で見かけたものと無意識に重ねている自分がいる。
     そして何となく、神社にいたあの白髪の彼が僕に持たせたのではないかと思った。他に何も入ってはいない。僕はもう一度くるくると布を巻きなおし、それをポケットの中にしまい込んだ。少しでも寝なくてはいけないのは分かっている。ごろんと横になりはした。埃が積もった床の上に寝転ぶから、明日は埃まみれになっているかもしれない。今更ではあるけれど。
     朝尊は深く寝入っているようで、全く目を覚ますことも無い。僕は無理やりにでも寝ようと、目を閉じた。
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