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    朝尊の話。
    在りし日の写真。

    ##梟は黄昏に飛ぶ

    過去 僕は朝日で自然と目が覚めた。朝尊は昨日寝入ったときと同じ体勢で眠っている。目を覚まさない。怖くなって口元に手を近づけた。息はしているのは分かった。火もない水もない。ただ、持ってきたパンと水はある。僕はそれを食べた。ペットボトルで水を持ってきていたけれど、コップはない。この家のコップを使おうかと考えたけれど、やめておいた。
     朝尊が起きだすまで僕は家の中を散策する。というより、朝尊に関しての手掛かりがないかどうかが知りたかった。この家は平屋で二階はない。こじんまりとした民家だ。庭もあまり広くはなく、長い間手が入らないことで草が茂っていた。個室があり、その中に立ち入った。学習机だろうか。赤いクッションが付いた椅子があった。参考書のようなものが数冊だけ残されている。そして写真があった。女性だ。卒業式の写真だろうか。制服を着た数名の女生徒が映っている。どの人物がこの部屋の持ち主かは分からなかった。
     失礼だと思いはするが、僕は引き出しを開ける。すると、文房具以外にノートが残されていた。日記のようだ。人の日記を勝手にみるのは気が引ける。ただ、今の僕に必要なのは情報だった。ぱら、と数ページ捲る。学校生活のことや友人関係の事が書かれていた。その部分は読み飛ばして、僕は何かないかと先を捲る。その中に『最近、同じ顔の人を何人も見かける』と書かれていた。どういうことだろう。友達に聞いてもそんなのは見たことがないと言われるとも書いていた。ページを進めていくにつれて、不思議なことが書かれていた。同じ顔の人、時折見掛ける鬼のような存在、そして狐。
     ある日を境に、その記述はぱたりと消えた。その代わり、自分に務まるのだろうか、不安だという文言が散見された。どうにか卒業まで待って欲しいと頼み込み、学校の卒業まではこの地域に居られることになった。祖父母、両親の仏壇をここに置いていくのはとても気が引けることだが、持ち込めないときつく言われてしまった。その代わりに、里帰りを許された。一年に二回、盆と正月。男士と一緒にここに里帰りをしよう。さすがに、全員は無理だろうけれど。と書いてある。それ以降、この日記の記述は途切れていた。今から六年前の日付。
     僕は日記をしまい込んだ。朝尊の様子を窺う。やはりまだ起きていない。僕は居間に戻ると朝尊を起こさないように居間にある棚の引き出しも開ける。上からニ、三段目に、紙が数枚入っていた。メモ書きのようだ。料理のレシピのように見える。そして少し厚い封筒がいくつかある。厚みのわりに重さがあり、宛先も住所も何も書いていないが、日付だけが書かれていた。五年前、四年前、三年前、一年前、そして、今年の冬の日付。二年前の日付は存在せず、今年の冬の日付以降の封筒もない。
     中を見ると写真だった。そこには、この家で撮ったであろうものが一つの封筒あたり、十枚ほど入っていた。一枚目は白い布を被った男と着物の女性、この男をあやるは見たことがある。初めて越してきた時に挨拶にきた。この着物を着た女性と一緒に。写真の裏には先ほどの日記と同じ文字で『初期刀と』と書かれていた。顔を隠しうつむきがちの男も控えめにピースサインをしている。そして、桃色の髪の少年とふたりでの写真。ぱら、ぱら、とめくっていく。長い黒髪を後ろに結んでいる少年、緑色の着物の壮年の男、背の高い茶髪の男。それぞれが自然に映っている。ただただ、日常を切り取ったような写真だ。四年前、相変わらず布を被った男と桃色の髪の少年は映っていた。一年前とは面子が入れ替わっているようだったが、白い布を被った男と桃色の髪の少年は相変わらず映っていた。大抵集合写真のようなものもある。ふと、この写真を撮っているであろうもう一人がいるのではないかと僕は察した。撮り手に回っていて自分は一切写真に写らない誰かの思い出でもあるのだ。
     三年前の日付。その封筒を開けて僕は視線を動かせなかった。朝尊が映っている。あの髪にメッシュが入った少年と、黒髪の少年もいる。そして薄紫色の変わった髪色の少年、そして銀髪のあの布を被った男に少し似ている人物。あの灰色のストールのようなものは、この銀髪の彼のものだったのだ。また一枚捲り、薄紫色の髪の少年が、僕が着ている服を着ている姿で映っていた。
     ぺら、とめくると、メッシュの少年と黒髪の少年と朝尊が地面に何か書いている様子が映っていた。その次の写真で、今まで見たことのない青年が、はにかんだ表情で朝尊とメッシュの少年と三人で映っている。その後、薄紫色の髪の少年の自撮りのような形で、全員が画面に納まった写真があった。僕はメッシュの少年と黒髪の少年をじっと見たが、何かが違うと感じた。
    ――僕は君の先生ではないよ。
     その言葉が脳裏に蘇ってくる。そして、日記にあった『同じ顔の人』という単語。
    「同じ顔の別人……」
     それは不自然なことだ。自分によく似た人が三人はいるとは言うけれど、これはその域を脱している。でも、違う。まるで同型の機械のようだ。とはいえ、僕はたくさん見たわけではない。このメッシュの少年と黒髪の少年を見ただけだ。
     一年前の写真を見ると、また面子は変わっていた。今度はおそらくあの白い布を被った男と同一の人物が、堂々とした様相になっていることに気付いた。わずかばかりに桃色の髪の少年も成長したように見える。そこまで考えて、僕は写真を遡った。写真に写る着物の女性は年を重ねているのがわかる。だが、この二人は突然成長をしたようだった。
     他にそのような様子の人物がうつっていることも無く、あの一度だけ映っていた青年はこの年の写真には写っていなかった。ただ、朝尊は着いてきているようで、端々に見切れるよういた。今年の冬の写真。僕は再び衝撃を受けた。金髪の男が映っている。黒いコートに赤いスカーフの年齢も分らないような男だ。この年は布を被っていた男と、朝尊、そして銀髪の髪の人物と一緒に来ていたようだった。優しそうな顔で笑っている。僕の中で確信があった。夢の中で僕に話しかけてきたのはこの人だ。何故か、目の奥がツンとして、ぽろと涙が出てきた。
     何故だろうか。僕はここに写るもののうち、布を被っていた男とこの金髪の男がもう居ないのだ、という感覚に襲われた。これが、僕の家の裏にあった日本屋敷に住む人たちの姿だ。忘れてはいけないと思った。撮り手の彼もどうなったのだろう。分からない。
     僕は写真をすべて封筒に入れなおし、引き出しにしまい込んだ。いつの間にか日が高くなっていたけれど、あの女性の笑顔と彼らの日常が、あの日燃えたのだ。全て。
     朝尊は何を想っているのだろうか。あの写真に写っている朝尊と、今ここにいる朝尊は同じだと僕の中で根拠のない確信がある。僕ではなく彼らの方に行きたかったろう。もしかしたら、朝尊が加勢すれば、何か変わったかもしれない。なのに、彼は僕を助けてくれようとする。
    「なんで、刀が僕のうちにあったのだろうか」
     僕は、朝尊はあの刀なのだと考えている。不確かではあるけれど、仏間にあった刀を引き抜いたときに、どういう訳か僕の背後に現れた。そして彼からは僕の家で使っていた線香の香りがしていた。ただ分らないことは、あの刀は僕の先祖が武士から譲り受けたということだ。同じものがどうして昔にあったのだろう。
     考え事をしていると、う、と小さい声がした。朝尊が起きたのだ。ややぼんやりとした表情で窓を見つめている。そして自分にかかっている黒いコートを見て、僕に視線をうつした。
    「……、どうしたのだい?どこか痛いのかね?」
     朝尊が僕に尋ねてきた。
    「何処も痛くないよ。怪我もしていないし」
     写真を見たことによる勝手な推測、憶測によって悲しくなっているなんて口が裂けても言えなかった。僕が隠し事をしていることに、朝尊勘付くだろうか。きっと、遠からず気付かれる。でも、何と言えばいいだろう。僕は貴方のことを知りたかったんだよ、と言って納得してくれるのだろうか。分からなかった。
     朝尊は明らかに体調がすぐれないようだった。僕はもう一日ここにいないか、と提案をする。一日二日風呂に入らなくても死にはしない。トイレもここは汲み取りだから、多少は平気だろうし、と。ただ、朝尊が具合悪そうだから、と言っても彼は絶対に休まない。だから僕が少し疲れてしまったから、と理由を言った。朝尊はしばらく考えたようだった。そして、分ったそうしようと頷く。パンと水は今日の夜くらいの分まではある。朝尊は起き上がって台所の食器棚の一番下を開け、乾パンと水を出してきた。
    「賞味期限は大丈夫だ。無いよりはましだろう」
     そして、再び横になってしまった。
    「すまないね、僕はもう少し休むことにする。明日には出られるから君も休みなさい」
    「ありがとう。そうするよ」
     朝尊は目を閉じる。怪我をしているなら様子も見たいのだけれど、彼は絶対に見せない。手遅れになりやしないか、僕は心配だった。それに、さらに北に行くというなら、海峡を越えてさらに北へいくのだろう。
    「いいよ。僕は何処にでも行くよ。それで貴方の気が済むのなら」
     僕のつぶやきはただ静かな室内に吸い込まれていった。
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