えんまゆめ(1)「……迎えにきたよ」
君はあの日のように、困ったように笑った。
ある日の午後。
ふと、窓をみると木の葉がするりと落ちていくのが見えた。
何となく鍵を開けると、心地の良い風が部屋に吹き込み、際のカーテンをささやかに揺らした。
遠くに見えるのは冬の空。
思えば君との出会いは10年前の今ごろだったかもしれないね。
「……ありがとう」
そう君に言われなかったら、今の自分はどうなっていたのかな。
不思議な目をした少年。
燃えるような赤い髪を私はいつまでも覚えているだろう。
ねえ、あの日は君にとって……どんな日だった?
夕暮れの川沿い、傷ついた君にはじめて出会ったんだ。
あの時、君は私になんて言ったか覚えている?
「……別に」
そっけなく答えた少年は、痛々しい傷をそのままに、ふいと目を背けた。
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