びわうさSS①「好きうさよ」
暑さもなく寒さもなくただ平凡に過ぎていく日々を享受する。今日この頃。
さて、今日とは一体何時なのか。
そんなことさえ、わからない世界に僕は囚われ続けていた。
本当に刺激もなくてとても退屈だったんだ……あのうさぎに出会うまでは。
「うささささささ」
なんだいそれ、笑い声かい?
真っ白なうさぎは僕の周りを跳ねていた。
何度も何度もまわっては奇妙な奇声を繰り返し僕の周りを跳ね回る…流石に煩わしい。(べしっ!!)
「みぎゃ!!」
一体なんだい?僕の周りで騒がないでくれたまえ……。
うさぎを放り投げると、まるでぬいぐるみでも壁に叩きつけたような軽い音がした。
「……いたいうさ」
嘘つけ、君に痛覚はないだろ。
壁に叩きつけられた白いうさぎは顔色ひとつ変えないで、文句を言った。
彼?彼女?はμの力によって約15センチの白兎にされた元人間だ。
痛覚どころか元の記憶さえほぼ封じられているらしい。まぁ、僕には関係ないけれど。
「びわさかーびわさかー」
こちらの気も知らないで、いつの間にか戻ってきたうさぎは今までのやり取りを全て無かったかのように僕の周りをまわりだしていた。だから何なんだよ。うさぎはぴょんぴょん跳ね回る。
このうさぎと初めて出会ったときのことは正直覚えていない。ずっと一緒にいた気がするし昨日からだった気もしてくる……まったく気味の悪い世界だ。
誰かにとって都合の悪いことは、全部「無かったこと」になってしまうのだから。
「うささささささ」
はぁ、なにがそんなに楽しいんだい?
僕にも教えてくれよ。
目の前のうさぎを掴まえると僕の手に収まった。
普段なら今頃いたぶって殺している頃だ。
そうだ……そうしてしまおうか。
うさぎを握りつぶそうかと考えると
「好きうさよ」
……なんだい?命乞いかい?
それならもっと必死に言わないと。
突然の言葉に、少しは楽しくなってきたように思えた。
僕はうさぎを見つめ返す。
「穴が空くうさ…照れるうさ」
嘘つけ。
僕の期待に反してうさぎは呑気にそう言った。
泣きも叫びもしないうえに顔色ひとつ変えない。
「好きうさよ」
僕は君が嫌いだよ。
どんなに投げても冷たくしても付きまとってくる死なないうさぎ、僕の退屈な日々に突然現れた不思議なうさぎ。君が望んだのか僕が望んだのか。
ただ言えることといえば……
まぁ、退屈ではなくなったかな。
僕はうさぎを放り投げた。