奉教人の死
クリスマスの晩、長崎の寺院に見目麗しい少年が行き倒れていた。その子どもは故郷を『天国』、父は『でうす(キリスト教における神)』と言い、出自不明であったが、手首のロザリオと、老人たちも驚くほどに敬虔なものであったから、宣教師も孤児を憐れみ、寺院で面倒をみていた。
特に、元武士である兄弟子からは実の弟のように可愛がられていて二人は大層仲が良かった。
三年の月日が経ち、少年は成人する。
信者たちからも愛される青年と、貧しい娘が恋仲であると噂が立つ。
噂は広まり、宣教師が青年を呼び出して問いただせば、青年は涙ながらに娘との関係を否定した。普段の行いから宣教師は青年を信じて不問にした。だがある日兄弟子は、娘が青年に宛てたラブレターを発見する。ラブレターを手に青年を問い詰めれば、青年は悲しみを湛えた瞳で兄弟子を見つめて、「私は、貴方にさえ嘘を吐くような人間に見えるのでしょうか」と言った。
2308