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    かんなぎ

    @kan___nagi

    フェロー・オネストに狂ってる女のpixiv外倉庫みたいなとこ。モブフェ、ギデオネなどフェロー受メイン。たまにフェロ監。

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    かんなぎ

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    芥川龍之介『奉教人の死』をギュッとまとめました。よろしければ。

    奉教人の死

    クリスマスの晩、長崎の寺院に見目麗しい少年が行き倒れていた。その子どもは故郷を『天国』、父は『でうす(キリスト教における神)』と言い、出自不明であったが、手首のロザリオと、老人たちも驚くほどに敬虔なものであったから、宣教師も孤児を憐れみ、寺院で面倒をみていた。
    特に、元武士である兄弟子からは実の弟のように可愛がられていて二人は大層仲が良かった。
    三年の月日が経ち、少年は成人する。
    信者たちからも愛される青年と、貧しい娘が恋仲であると噂が立つ。
    噂は広まり、宣教師が青年を呼び出して問いただせば、青年は涙ながらに娘との関係を否定した。普段の行いから宣教師は青年を信じて不問にした。だがある日兄弟子は、娘が青年に宛てたラブレターを発見する。ラブレターを手に青年を問い詰めれば、青年は悲しみを湛えた瞳で兄弟子を見つめて、「私は、貴方にさえ嘘を吐くような人間に見えるのでしょうか」と言った。
    その表情に、兄弟子は疑った自分が恥ずかしく感じて、青年の部屋を後にした。
    だがバタバタと青年が追いかけてきて、兄弟子の首に手を回して「私が悪かった、許してください」と呟いた。
    走り去る青年を見ながら、その謝罪が娘との関係のことなのか、嘘を吐いたことかわからぬまま兄弟子は納得できずにいた。

    ところが、ある日娘が子どもを孕んだ。
    それはあの青年との子どもだという。
    娘の父が寺院に怒り心頭で訴えにきた。
    教義に反すると責められた青年は、ついに寺を追い出されることになってしまった。
    兄弟子は青年に騙されていたことに怒り、寒空の下、裏口から出て行く青年を横から殴り付けた。
    殴られた勢いで地面に倒れた青年は、「神よ、彼を許してください。彼は自分が何をしたかわかっていないのです」と祈った。
    それに気圧された兄弟子は、去って行く青年の背中を見送ることしか出来なかった。
    居合わせた信者は、青年の行先に夕陽が沈む様が、まるで炎の中に一人立っているようだと言った。

    青年は乞食に身を落とした。
    かつての面影はなく、子どもに嘲笑われ、石を投げられ、流行病で一週間寝込み生死の境を彷徨った。神の思し召しか、命は取り止め、山の恵みや海の恵みで命を繋いだ。
    敬虔さは変わらず、ロザリオも青い輝きを失っていなかった。
    夜も更ければ寺院に通い、神に祈りを捧げていた。

    しばらくして、娘は女の子を産んだ。
    色々あったが、女の子は可愛がられ、意外にも兄弟子が女の子の様子を見に通うようになった。
    青年の娘に、彼の面影を探して。
    母になった女は一度も子どもに会いに来ない青年に憤っていたので兄弟子の来訪を良く思ってはいなかった。

    一年ほど経ち、長崎の町を大火事が襲った。
    みるみると火に飲まれる町から逃げ惑う人々。
    命辛々、安全なところに逃げた女は娘がいないことに気が付いた。
    大火の中置き去りにされた娘を助けようと、女の父や兄弟子が火の中に飛び込もうとするが火煙の勢いが強く、手をこまねいていると、乞食になった青年が現れた。

    「神よ! 助けたまえ!」

    高らかに叫んだ青年は、あろうことか炎の中へ入っていく。
    青年と同じく、「神よ、助けたまえ」と兄弟子は空に十字を切った。
    それはいみじくも、あの日、青年を追い出した日の光景に似ていた。

    信者たちはどよめきながらも、「親子の情があったらしい」と青年を嘲笑った。
    女の父は愚かにも青年を罵った。
    女は降り注ぐ火の粉も構わずに地に踞り、ひたすら神に祈っていた。

    しばらくして、青年が娘を抱き戻ってきた。
    しかし驚く民衆の前で、焼け落ちた柱が倒れてきて青年を圧し潰した。助け出された娘は間一髪、青年が押し出して、母の膝下に転がり出て無事であった。
    兄弟子が駆け寄り、燃える柱の下から青年を助け出すが、火傷と怪我で虫の息であった。
    すると女が宣教師に涙ながらに、「娘は本当は彼の子どもではありません」と衝撃の告解をする。
    女は青年に惚れていたが、青年に受け入れられず恋心は憎しみに変わり、隣家の男ともうけた子どもを彼との子どもだと偽ったのだ。
    息を呑む宣教師に女は言いすがる。
    「私は大罪を犯しました。悪魔の爪で引き裂かれるでしょうが彼を恨む気持ちはありません。しかし地獄のような大火から娘を救ってくれた彼はきっとイエスの再来でありましょう」
    泣き崩れる女に、周りの信者から「ならばこれは殉教ではあるまいか」と声が上がる。
    青年は女の罪を背負い、乞食まで身を落としたが、真実も青年の本心も、宣教師や兄弟子の知るところではなかった。これが殉教でなくなんだというのか。
    兄弟子と女の父に手当を受ける青年だが、その命は消えかかっていた。
    宣教師は女に言う。
    「悔い改めたその罪は人の手では裁けない。今一度神の教えを守りながら生きて、死後の最後の審判を待て。青年の徳業といえば」
    宣教師が足元に臥す青年を見下ろし言葉に詰まる。
    その手はぶるぶると震え、両の目から涙が溢れて止まらない。

    死を目の前にしながら穏やかな顔の青年の焼け焦げた着物から、膨らんだ乳房が見えていた。

    女を犯した罪で追放された青年は、女性であったのだ。

    神の声が降り注いだように、その場にいた皆、恐れ、稲穂のように頭を垂れた。
    兄弟子か、それとも女か、啜り泣く声が聞こえる。宣教師が祈りの言葉を口にした。
    聖女は、神の威光を仰ぎ見、微笑みをたたえたまま、大勢の信者の前で息を引き取った。

    人の世は尊いものだ。何にも代え難いものである。
    しかして、彼女の最期を知るものは、しかし彼女の一生を知るものではないだろう。
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