「お前、選択音楽じゃねェんか」
「ええ、授業とはいえ聞きたくもない曲聞かされたくないんで」
「もうちょい穏当な言い方できねーの?」
藤堂君とそんな話をしたのは3か月ほど前。野球部入部を決めた後すぐだった。同じく芸術で書道を選択した藤堂君と並んで書道室へと移動して、そのまま流れ隣同士の席に座って、藤堂君から質問されたのだ。野球部に入ってすぐの頃はだいたいそうだった。藤堂君が話しかけてきて、俺が性格の悪い対応をして、藤堂君がいらっとする。でもまた話しかけてくる。部員は友達! 仲間! 仲良し! というタイプなのか、あほだなあと思っていたけど、別にそうでもないような、あるような。藤堂君は仲良しこよしを押し付けてくるタイプではない。デリカシーがあり、イップスともう一度向き合う覚悟があり、仲間想いで、チャンスをものにできる男だ。しかも家族想いでもある。絶対本人には言わないけれど、いいひとだ。
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