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    猿川と依央利の捏造学生時代。

    バカばっか「猿川の嫁、また来てんじゃん」
    顔も名前もぱっとしないクラスメートが、眠ろうと机に突っ伏した矢先に頭を小突いた。別段痛くはないが、腹が立つ。ふざけんな。そう拳を振り上げるより先に、さっきまで教室の入り口にいたはずの依央利が間へと割り込んだ。
    「さーるちゃん、一週間も無断欠席してどこ行ってたの?」
    やっぱ嫁じゃねえか。見せつけんなよなー。途端にからかいの声がどっと増えた。
    「うっせえ!」
    見物客を散らすように派手に机を蹴って猿川は依央利の腕を引っ張る。俺はともかく、いおは見世物じゃねえ。知らず舌打ちが漏れた。
    「あたた、痛いよ猿ちゃん」
    後ろから声が上がっても知ったことではなかった。構わずそのままずんずんと教室を抜けて、人が行き交う廊下を抜ける。屋上へと続く階段を昇る頃にはチャイムが鳴っていた。どうせ次は自習の時間だ。依央利はともかく、猿川が教室にいようがいまいが、まるで関係がなかった。勢いよくドアノブを回してドアを蹴る。ガコンと、けたたましい音が鳴り響いた。
    「なんで教室に来んだよ。来んなっつったろ」
    ようやく腕を解放された依央利は少しだけ悩んだふりをした。ごめんね、猿ちゃん。なんて、ちょっと困ったように笑うから猿川はまた苛立った。
    べつに二人だけの時なら構わない。わざわざ狙ったように教室に来るから腹が立つ。あんなことをしたら、悪い意味で注目の的になるようなもんだ。
    品行方正で、なんでも出来て、賢くて曇りのない本橋依央利が、自分の悪評の巻き添えを食ってあいつらの好奇の対象に成り下がるのが耐えられない。あいつらバカばっかの癖に、面白がれると知りゃすぐ下に見やがる。
    施設だとサンタクロースなんて来ないんだろ?そういって笑ったバカ。殴ったらすぐ泣きそうになる癖に、どいつもこいつもニタニタつるんで何が楽しんだ。
    幼馴染みのこいつにしたってそう。あんな奴らに、おまえの半分も賢くねえ奴らにバカにされて腹が立たねえのかよ。
    少しは怒れ。言葉の代わりにガシガシ頭を掻いて地べたに座り込む。しゃがみこんだ依央利と程なくして目があった。
    「でも僕、心配でさ」
    「だからって笑われに教室に来るヤツがあるかよ。おまえ腹立たねえの?」
    「うーん、そういうのよく分かんないや」
    ごめんね。小さく謝る依央利にまた舌打ちが漏れた。
    僕、からっぽだから。依央利の目の色はいつだって真っ黒で正直なにを考えているか分からないときがある。なんだか吸い込まれそうだとも思う。なにがよくて自分なんかの周りをうろちょろするのか。それすら未だによく分からない。
    幼馴染みだから?それとも放っておけない?心配?どれもしっくりきそうでどっか欠けてるから、理由にするには気持ちが悪かった。
    「お昼過ぎちゃったけど、お弁当食べる?」
    「ハァ……?」
    差し出された弁当に頓狂な声が出た。後ろ手に今まで持っていたらしい。
    「食べてないでしょ、猿ちゃん。ダメだよ~。ちゃんと食べないと」
    ほらほら、といつの間に弁当を開いたのか、タコの形をしたウィンナーが目の前にあった。
    おいしいよ。笑う依央利の目が糸のように細くなる。猿川は呆気に取られてなにも言えなくなった。食わなくたってこいつの飯がうまいことなんか知っている。腹がぐうと鳴った。
    「ほらー、やっぱりお腹減ってる」
    「……来なきゃよかった」
    「どうして?」
    どうしてもこうしてもあるか。猿川が言い淀むと、糸のような依央利の目が少しずつ開かれる。いてもいなくても心配する癖に、してほしくないことは絶対に汲まないから強情だと思う。どうしたって伝わらない。
    また腹がぐうううっと、今度はさっきより長く鳴った。うまいに決まってる飯をちらつかされて限界だった。
    「ん」
    依央利の持つ箸の先で揺れるタコを頬張る。うめえ。箸を奪うなり掻き込むように茶色いおかずを米で流し入れた。空気がなんとなく震えた気がした。きっと依央利が笑ったんだろ。両膝に腕を置いてじっとこっちを見つめる黒い瞳。なにも映らないようにも思えるそこに、自分の姿がきっとある。
    もっとも猿川は視線を上げることはしない。まだまだ腹が立っているから。
    やっぱりあいつら一発殴っとくか。まだ時間はある。自習中にちゃっちゃと殴っちまえばいい。で、女子が職員室に走る間に帰ればいい。全部俺のせいにして、いつかまた学校に来たときに適当に叱られておけばいい。
    決まりだ。空になった弁当を依央利に突き返す。うまかった。でも次こそいらねえ。たぶんこれは礼をいう態度なんかじゃねえ。なのに、どんだけぶっきらぼうな返事をしても弁当を食ったあとは決まって依央利は笑っている。
    「覚えてたらね」
    また持ってくるからね。そう言われているようなもんだった。どれだけ嫌だといったって、今日も聞き入れてはもらえない。
    「俺なんかとつるむなよ。……嫌なんだよ」
    「猿ちゃんが嫌なの?」
    変なの。不思議そうな依央利の顔にまたムカムカとしたものが込み上げてくる。変なのはどっちが。強くなった腕っぷしも依央利の前ではなんの役にも立たなかった。
    「いおがバカにされんだよ」
    「またそれかぁ。いったよね、なにも思わないって」
    「俺が思う。俺はやだよ」
    たまに耐えらんなくなる。ぐっと飲み込んだ言葉に気が重たくなった。なにが嫌だ。依央利がバカにされて傷つくのは結局は自分なんじゃないのか。一体なにに?
    自分勝手にこいつとの間に引いた線がぐちゃぐちゃになりそうだった。特別だから俺とは違う。あいつらとも違う。そうだ、分からせなきゃいけない。
    頭のなかで間違った回路がバチンバチンと繋がった。
    「おーい。猿ちゃん」
    「授業、出ねえと」
    「は?え、ちょ、ちょっと!」
    弁当を片付けるのに手間取っているらしい依央利を置いてドアをくぐる。そのまま一気に階段を無視して飛び降りる。足に衝撃がきてもどうってことはない。今度は手すりの横の段差を尻で滑る。着地と同時に一直線に教室を目指した。自習が終わるまでまだ少し時間があるはず。ドアをバンと開くと察しのいい奴が慌て出す。
    やべえ、猿川だ!猿川が来た!
    ややあってちょっとしたパニックが起きるがもう遅い。俺は機嫌がわりいんだよ。吼えるなり掴みかかる。依央利とは違う、ちゃんと怯える顔に途方もなく安心した。安心したらどうでもよくなった。
    案の定飛び出す女子の背中を見送って、ほとんどなにも入っていない鞄を回収する。このままいい気分で帰ってしまいたい。2階ならいけるかとベランダの柵を跨いだところで廊下を走る依央利と目があった。真っ黒なふたつの目が少しだけ揺らいだ気がした。
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