ふ、と小さくため息を吐いて、俺は綺麗に磨いたグラスを置く。最近、仕事が多い気がする。いや、観光区長の、ではなくて。とはいえ別段、困っているというわけでもないのだが——
「太緒くーん」
「あ、はい。何かありました?」
「んーん、発注作業覚えといてもらおうかなーって。今すぐ頼むってわけじゃないけど!」
ゆくゆくはフレアバーテンディングもやってみちゃう? なんて明るく言ってのけた元凶その本人は、どこか上の空。ただ、なんとなく彼の——ゆんゆんさんの真意はそこにないような、そんな予感だけがあった。何かを誤魔化すとき、喩えるなら、一緒にやろうと約束したゲームを、先んじて一人プレイしてしまったときの千弥みたいな。
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