知らない人だった。
深い夕焼けの中に、その人はぼうと立ち尽くしていた。橙に照らされながら、その口は何も紡がない。その目はこちらに向けられていない。なにか遠くを、たとえばあの太陽なんかを見つめているのか、はたまた、ただ眼前の赤色を眺めているだけなのか。
自分は、どうしてここにいるのだろう。ただ一人、目の前の綺麗な男——そうだ。綺麗だと思ったのだ。彼がそこで、一心不乱に何かを祈っているような、そんな光景を幻視した。声をかけようかと逡巡する。視界の外でぱしゃりと何かが跳ねるような音がして、そうして、ここは海だったのだと気がついた。
「……」
夕と夜の間。そんな淡い色をした男は、数瞬かけてこちらを一瞥し、落胆したようにまた遠くを見る。その視線を追うようにして、夕陽に目を向けた。熱された鉄塊のようにあかあかと燃える陽が、海に沈もうとしている。斜陽が世界を照らす。眩しくて、灼けついてしまいそうで、たまらず目を逸らしてしまった。潮の匂いが、それを咎めるように鼻につく。
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