都会の雨 ひょんなきっかけで、少し話をすることになった日比谷と大江戸。場所は分かりやすいように、と乗換駅である六本木駅にしたのだが、先に日比谷のほうが大江戸のほうに下りてきていた。駅の外では一日中雨がしとしと降り続けていて、今も地上を濡らしている。
「日比谷さん、すみません。私が向かうことも可能だったのですが」
「ううん、平気。久しぶりに、大江戸の最深付近に来てみたかったんだよね」
利用客は既におらず、歩く音も響く程の時間帯だ。適当に見つけた椅子に座り、早速話を始めた。
「最近ね、実感してることがあるんだ」
「何でしょう」
「都会の雨と田舎の雨って、感じ方が全然違うなって」
「なるほど。都会と田舎で、ですか」
大江戸は納得できそうな所を頭の中で探しながらも、日比谷へ尋ねた。
「私は全駅が地下にある上に、直通運転もしていませんので実はあまりピンと来ていないのですが、具体的にどの部分でそう思われますか」
正直に言ってくれた大江戸に対し、日比谷は快く教えてくれた。
「まず、そもそも空気の綺麗さや風景が違うから当たり前ってのは前提で、直通先の終点駅で雨だった時は心が落ち着いてたのに、都会は…何というか……良くも悪くも、身体に感情が一緒に沁みてく気がして。プラスの気持ちの時はいいんだけど、マイナスになってる時は、底に引っ張られるような感じになりがちで――ただ、そう思ってるのは僕だけかもしれない。とはいえ、ほんのちょっとでも伝わってれば嬉しいな」
合間合間で相槌を打ちながら聞いていた大江戸は、それとなく腑に落ちたかのように答えた。
「確かに全てをすぐに理解することは難しいのですが、雰囲気は凄く伝わりました。現在の私は地下で完結しているので、場所によって生じる雨の印象の差を感じづらいところがどうしても出てくるのは、若干寂しく感じました」
「それなら、いつかその差を感じれる機会が来ればいいね」
会話をしている間にも、外ではまだ雨が降り注いでいる。自分も実感してみたい、という大江戸の興味とともに、暫く止みそうにない。