ヒュプノス〈side O〉
筋張った大きな手が、髪をそっと撫でる。
普段の所作からは想像もできないような、繊細なタッチ。地肌に触れるか触れないかの、まるで羽が触れるかのような手つき。頭頂部から首筋までゆっくりとその指先が滑り落ちるたび、水が流れるように、胸の内の澱が洗い流されていく気がする。
その手が頭や耳、首筋を行き来する心地よさに、いつしか意識はふわりと手放され、眠りに落ちる。眠りと覚醒の狭間をたゆたいながら、時々こんな考えがよぎる。
──このままもう二度と、目覚めることはないかもしれないと。
死と眠りは兄弟だ。
この男の手は、どこか私を冥界へと誘う手のようだ。
この男の傍にいると、死は安寧をもたらすものに思える。まるでそっと手のひらで包んで蝋燭の炎を消すように、安らかに生の終わりを迎えられる気がする。
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